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それぞれ注文し、メニューを戻してから水を一口飲んだ。
「…ボス、話しておきたい事がある…俺は今、記憶に曖昧な所がある……これは前からだ…」
トラインと元の世界の時間経過が同じなのかは分からない、しかし俺がまだ転移していない頃の話だろう
「…情報が巧妙に遮断されている……ボスは、俺以外のタイプを作った記憶はあるか……?」
「戦士とか?あるけど――――」
名前は、と即座に返される。名前って、名前…?名前は、あの……
(あれ……なんで思い出せない…?)
俺は戦士か魔術戦士でよくこのゲームで遊んでいた。正直言ってしまえば、魔術師は前者2タイプに比べたら使用率は1番低かった。
でもそれぞれにちゃんと名前も付けて、それこそ戦士タイプなんてキャラメイクに長時間掛けたせいで日付を越えた記憶さえある。
「……2名、ボスや俺の中で行方不明者がいるんだ…」
彼と、リヒトと顔を合わせた時はすぐに思い出せたのに。もしかしたら顔を合わせないと思い出せなくなっているのだろうか
「これって、どうしたら……この世界には居るんだよね?」
それすらも、と言った感じで彼は顔を左右に振った。下手すると、もうこの世には居ないかもしれない
「それを探る為に、目的があってないような所へ行くしかないと考えている……」
「俺は転移した衝撃で、とか言い訳は出来るかもしれないけど…リヒトにまで及んでいるならおかしいよな」
それに本人も自覚しているという不思議な状況だ。記憶が何かによって遮断されている事は間違いなさそうだ
名前、と思い出そうとしている間に注文していたパスタが到着した。
「…ボス」
「……あ、うん、食べよう!いただきます」
食べながらも、どうしたら思い出せるかなと考える。この壮大な世界でたった2人だけを、ほとんど情報もなしに探すのは無謀だ
改めてそう言われると顔も出て来ないし、見た目もぼやけたようなイメージで驚くほど頼りにならない
「……ふぅ…」
前からリヒトの声が聞こえてハッとなる。ちらっと見れば既に完食していて、俺も食べなきゃとパスタを口に運んだ。
「ねえ、集会所へ行ってみない?情報を集めるならそこがいいと思う」
「…避けられないか……」
だろうな、と俺は苦笑した。集会所は依頼を引き受けたりお願いしたり、いわゆるクエストが出来る場所だ
リヒトからすれば俺をそこへ行かせたくないだろう、でもわざわざ加護や契約をしてくれたんだし行くだろ
「も、もしかしたら…迷子の依頼とかあるかもしれないし!」
「そんなものは、ない……」
物は試し、ということで集会所へ行ってみることにした。
壁には様々な依頼の貼り紙が所狭しと掲示されていた。特に色のある依頼は報酬が高かったりと色々意味がある。
ざっと見るだけでも色付きの依頼がちらほらある。内容としては危険だが報酬が弾むとか、依頼主にとっては重要だったりと様々だ
「平和な依頼がいいなぁ」
なんて、生ぬるい事を言っている自覚はあるが。どうするんだ?とリヒトに微妙な表情で問われる。
「試しに聞いてみるよ、ちょっと待ってて」
受付へ向かうと、対応してくれたのはエルフの綺麗なお姉さんだった。
「どのようなご用件でしょうか?」
透明のボード越しに微笑まれた。やっぱり人間と違って本当に耳が尖ってるんだ。
こんなに間近でエルフを見るのは初めてで、端麗だしキラッキラしていてとても眩しい
「あの……」
「っと…すみません、初めてなんですけど…迷子の依頼とかあったりしますか?」
そういう事ですか、緊張なされているんですねーと言いながら魔術を展開し検索を始めた。
「ではこちらでいくつか依頼をピックアップしておきますのでこちら記入後、番号札を持ってまた来てくださーい」
リヒトが座っている近くのイスに座り、必要事項を書いていると体を傾けて覗いてきた。
「…ユヅキ……?」
俺の名前を何回か呟いていた。彼からするとあまり聞き馴染みがないのかな?と思いながら書き進めた。
そうして新規登録を済ませ、早速引き受けた依頼は愛犬を探して欲しいとの事だった。
「さすがに迷子は無かったな〜 リヒトも一緒で良かったの?」
彼ならもう少し難易度の高い依頼も出来るはずなのになぁと思う、彼は問題ないと答え依頼書に視線を移した。
べーライズには大きく分けて5つの地域があり、依頼主は3の地域在住との記載があった。
それから街から出た可能性有とのことで丸も付けられていた。
「まずはこの仔の好きなカリコリボネ?…を途中で買ってから依頼主の所へ行こう」
3の地域に行く途中で骨を買い、特徴などを具体的に知る為に依頼主へ話を聞きに行く事にした。
ゲームだったらわざわざ聞きに行かなくても依頼書をパッと見てハイ解決、みたいな内容も無くはないのだが
(今はゲームじゃないし、俺には何の能力もないからこそ足で稼がなきゃな)
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