前世の知識でお弁当屋を開きましたが、仕事仲間の第二王子から溺愛されるなんて聞いてません

9/18
前へ
/18ページ
次へ
「仕込みをする。明日は日中に完売させぬよう、今日の三倍は仕込みをしておいた方がいいだろう」  まさか、殿下はまだ働くつもりだというのか。  信じられない! というかそんなことさせる訳にはいかない!  わたしもキッチンに入って、殿下の前に立った。 「殿下おひとりに作業していただく訳にはいきません。わたしも手伝いますわ」 「キッチンの様子も見ていたから、私ひとりでも問題ないが?」  要は、自分は力不足ではないと言いたいらしい。いやそうじゃなくて。 「そういう問題ではございません」  わたしは拳をぎゅっと握った。 「わたしはこの店の主です。わたしも責任をもって、明日こそ途中で売り切れないようにします!」 「いい心意気だ」 「……!」  待ってください、殿下。今の微笑みは反則です。心臓が止まるかと思いました。  動いてる? 動いてるね、心臓。うん。  すーはーすーはー。深呼吸してから、わたしは殿下を見上げた。 「恐れながら、殿下にはきんぴらごぼうをお願いしていいでしょうか」 「いいだろう。ちょうど、味付けを知りたいと思っていたところだ」  しゃしゃしゃしゃっ。  あぁ……。慣れた手つきでこの国の第二王子がごぼうをささがきにしているなんて誰が信じられよう。 「これは変わった香りのする油だな」 「ごま油といいます」 「この黒い液体は……?」
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!

59人が本棚に入れています
本棚に追加