前世の知識でお弁当屋を開きましたが、仕事仲間の第二王子から溺愛されるなんて聞いてません

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Q.婚約破棄に必要なものは何でしょう? A.婚約していることです。 「あああ、いいな~。冷徹な婚約者から婚約破棄を突き付けられて絶望する主人公の前に現れる、婚約者よりもハイスペックなヒーロー!」  ぼろぼろになるまで読み込んだ、訳あり令嬢の恋物語をぱたんと閉じる。  ……というか新しいものを買えないからぼろぼろになってしまったんだけど。  そう、わたしはあまり裕福ではない伯爵家の令嬢。名前をアドリエンヌ・アドルワンという。  お父様譲りの金髪と、お母様譲りのエメラルドのような瞳で、見た目だけならザ・貴族。  だけど着るものはすべてお母様のおさがり。ほつれたところは繕いながら使っている。  贅沢なんて夢のまた夢。流行は遠い遠い彼方。夜会、何それおいしいの?  そんなわたしには誰にも言えない秘密がある。  前世でのわたしは日本人女性。  実家がお弁当屋で、お店は古くから地域の人々から愛されていた。  OLとして働いているけれど、いつかは実家を継ごうと思っていた。  前世の記憶が蘇ったのは5歳のときだった。  領民と一緒になって汗水垂らすお父様に連れられて、訪れた領地内の田園。  田んぼに水が張られている光景を目にしたとき、ぶわーっと頭のなかに流れ込んできた、もうひとりの人生。
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