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その病は、体の一部が様々に変色するものだった。紫の腕、緑の肩、赤い膝……。薬で不調を治した後も、色だけは残ってしまう。
僕は落ちこぼれ治癒術師だから。せめて皮膚の色を動かして、服で隠せる部位へ。ついでに形も調節して、華のように。
陰っていた患者の目に光が宿る。
可愛いは希望。
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魔女は素早く箒にまたがった。
「逃げる気か!」
人狼が叫ぶ。
「まさか」
魔女は小さく笑む。
「この箒はね」
両膝でがっちり挟んだ箒の柄の先端に魔力が凝縮し、直後、破裂するように射出した。目を射る光と共に。
「こうして押さえておかないと、飛んでっちゃうの」
それが空飛ぶ箒の名の由来。
-3-
最近、近所の山で白い人魂のようなものを食べる狐の姿が目撃されており、『魂食い狐』と呼ばれている。行ってみると、人に餌付けされ車にはねられた狐の幽霊だった。
『お腹がすいたし、人が恋しい』と言うので塚を作って供養してやる。
お前のお陰で、妻に祟られずに済んだようだからなあ。
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私は人の顔を覚えるのが苦手だ。でもたまに一発で覚えられる相手もいるから、とても人に説明しづらい。違いは、その人が素で生きているかペルソナで生きているかだと思う。本当の自分を隠して群れに埋没する技術を磨かれては、識別が難しいのも当然だ。……まあ、お前は素で生きすぎだが。
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「旅人さん達、あの山を越えるなら午後にしなされ」
村人の忠告によると、そこは雨や雷などの嵐が毎日昼まで発生する場所だという。
「あれはモンスターと違って、狩ることができぬ」
不思議に思ってよく聞けば、村に住む武術の達人が毎日鍛錬を怠らぬのだという。待って、必殺技の効果なの?
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巨大地下迷宮に潜っていた冒険者達が帰ってきた。最奥まで到達した割に微妙な表情。
「奥へ進めば進むほど、相手が弱くなったんだ。最後の奴は本当に肩透かしで」
「そりゃ人と頻繁に交戦する階層は必死だからな。安全圏にいる奴らは鍛える必要ないんだよ」
外壁が一番堅いのさ。
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「昔は、もっと集中して本を最後まで読めたのに」
創作繋がりの友人が愚痴をこぼす。結婚と出産、睡眠不足や育児ストレスで脳がぶっ壊れたとの事。
「少し読んだだけで、『自分ならこうする』ってネタが出てきて書き留めずにはいられない、全然読み進められない」
……復帰、案外近そうだね。
-8-
村には十年に一度の祭祀がある。滝壺へ若い娘を捧げ水神に祈れば、水害が村を呑み込む事はないと。今年の贄を私は進んで引き受けた。水底には水神の村があった。住人は若い娘ばかり。
「よう来たな」
もうあんな村に戻りたくない。私の夢枕に立ち、託宣を下さった神よ。永遠に貴方のお傍に。
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春の国には常に桜が咲いている。菫に蓮華、菜の花や蒲公英。鳥や獣の子もいる。春の使いはそれらを地上に届けて回る。元は人であった魂が、輪廻の輪に戻る前にひと働きするのだ。
「今年の杉花粉やりたいやつー」
下界に恨みのある魂には、割と好評。憂さが晴れて次に進みやすくなるとか。
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自分の店を持つのが夢だった。しかし金がない。物件を探してはため息をつく日々。するとある日、格安すぎる店舗がひとつ。
「ここねえ……『出る』んですよ……」
早速契約し、店内にカメラを据えて常時生配信する事にした。
『霊までバッチリ写ります!』
小型電機店、滑り出しはなかなか好調だ。
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