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-21-  人と対話できると思ってはならぬ。そう教えられて育ってきた。  人は、必ず魔を憎む。何故なら魔族を憎んでいる間は、自分自身の抱えている問題から目を逸らしていられるからだ。  誰も自分の影からは逃れられぬのに、 「これは魔族の落とした影だ!」  と叫ぶ間は、己を光の民だと信じられるから。 -22-  その屋敷には12人の召使が住んでいた。庭師、料理人、給仕人……役割分担をしながら仲良く。  ある日まだ幼い少年がやってきた。初めまして、坊っちゃま。我々はみな同じ孤児院出身の子供でした。旦那様がこの屋敷に迎えて下さったのです。  あなたは13人目、亡き旦那様の後を継いで主人の役を。 -23-  王宮から遣いが来た。昔の同僚を誘い、王の元へ。火龍の子が夕方になると機嫌悪くなり火を吹きまくっていると。 『あのね、一日の終わりは疲れてるから。胸がもやもやする時は早く寝ようね』  元乳母の言葉を宮廷魔術師の私が訳す。 「王も昔はこうだったわ」  その子守唄を聴いて、貴女に惚れた。 -24- 『若返りの実』とはエルフたちが好んで食する、精霊の森にのみ生る果実。  その盗賊は、それを命からがら盗み出してきたという。 「旦那様、おやめになった方が」  家人が止めるのも聞かず、強欲な主は一口かじる。見る間に体が変化を始め、そして消えた。 「長命種だから若返りで済むものを…」 -25- 「こりゃ酷い」  死者の魂を選別していると、たまに穢れきって輪廻の輪に戻せないものがある。 『地獄』で洗って再利用できないレベルの魂は、砕いて他のものと混ぜ合わせて作り直す。しかし混合がうまくいかないと、地上で劣悪な要素だけが肥大する。これが増えると。 「……そろそろ戦争かなあ」 -26-  生きていて、何もかも嫌になった。  理不尽や悪意に満ちた社会。何にもない空っぽの自分。だから役者になったんだ。現実を忘れたくて。  台本がある時もない時も、与えられた役割を考えて振る舞う癖がついた。  でも不思議だ。 『スター』って役だけは、なるもんじゃない。 『背負う』ものだった。 -27-  季節が変わる頃。扉をくぐって小人達の村へ行くと、足元に何かが大量に落ちている。髪の毛だ。見ると、村人達の髪の色がいつもと違う。 「換毛期なんだ。この時期、みんな茶色から緑へ毛色が変わる。鳥獣に襲われにくいようにね」  小さい人間に見えるけど、やっぱ違う生き物なんだな…。 -28-  彼の石像彫刻には独特の雰囲気がある。  土着の神々のような無骨な造形でいながら角は丸く、全体的に柔らかい。  興味を惹かれ取材を申し込むと、仕事場への山道には様々な石像が点在していた。獅子、子供、老婆…。 「ほう、途中誰にも止められなかったか」  やはり。あれらには魂が宿っている。 -29- 「この山に幽霊屋敷があるって聞いてきたんだが」 「ええ、この道の先に」 「昨夜中に入って泊まってみたが、誰もいなかったし何も出なかった」 「ではもう一度、昼間に行くといいですよ」 「…何もなかった。人どころか屋敷さえ!」 「あれは屋敷の幽霊なんです。昔、燃え落ちたはずの」 -30-  その貴族の女性は年に一度、何人かの供を連れて泉へピクニックにやってくる。そして皆が休憩に入った頃、そっと祈りと供物を捧げる。 「これは贈り物です。どうかお受け取りを」  それはいつも、小さな女の子向けの靴下や髪飾りやお菓子などだった。  泉の女神は黙って受け取る。姿を見せずに。
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