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弟とは年が離れているものの、昔から兄弟仲は悪くないと自負している。そのせいか、弟=小学生世代で流行しているテレビや噂に、僕もなんとなく詳しくなってしまっていた。一緒にテレビを見ることも多いから尚更に。
さらには元気いっぱいの悪戯小僧である弟は、食事中も一緒にゲームをしている時間もとことんお喋りだ。その日、弟が晩御飯を食べながら持ち出してきたのはとある怪談の話だった。
「オコノハ町の七不思議って知ってる?」
「あー……なんかそういう話、聞いたことあるような」
弟の言葉に、お父さんと僕は顔を見合わせた。誰が作ったのか知らないが、僕達が住んでいるオコノハ町には妙な怪談が七つある。確か。
「手が伸びてくるマンホールだろ?空き地の土管から覗く目だろ?オコノハ第二小学校の桜の首吊り死体だろ?三丁目のお化け屋敷だろ?あと、えっと……」
「父さんが知ってるのであってるなら……神隠しの裏山、オコノハ第一中学校の呪われた花壇、五丁目の魔界へ続く分かれ道……じゃなかったか?」
「あ、そうそうそんなかんじ。なんだ、あれ父さんの頃からあるのかあ」
「まあ、歴史が古い町だからな」
確かに、その七つの怪談だった。僕は頷きながらお味噌汁を食べる。ちなみに両親は元名古屋の人ということもあって、お味噌汁は赤味噌を使うことが多い。関東人は、白みそか、もしくは混ぜ味噌で作ることが多いらしいのだが。
「んー?」
僕と父さんの会話に、首を傾げたのは弟だ。
「なんか一つちがくね?五丁目の魔界へ続くなんちゃら、じゃねーぞ父さん!俺が知ってるのは、呪われた空き地の人形だ!」
「のろわれたあきちのにんぎょう?なにそれ?」
父の代からある七不思議のうち、一つだけが変わったなんてことがあるのだろうか?僕が尋ねると、弟はえっへん!と胸を張って言う。
「俺達の家の前の通りを右に行くと坂道を上るだろ?で、その終点って空き地になってて、ずーっと売りに出されたまま買い手がつかないじゃん?袋小路だし狭い土地だし、坂道きっついしでメリットないからだと思うんだけど。あそこ、実は呪われた人形が埋まってて、だから売れないんだってみんな言ってるんだぜ!」
確かに、買い手もつきそうにない、不便な土地が売りに出されているなとは思っていた。両隣も廃屋になってしまっていて危なそうだし、草がぼーぼーに生えたあの土地自体も狭くて使い道がなさそうだしで。
まさかそこに、新しい怪談が生まれたとは思ってもみなかったが。
「小学校でこの町の七不思議が大流行してるんだけどさ、特にみんなが怖がってんのが、あの“呪われた空き地の人形”なんだ。あの土地には昔、人形大好きな女の人の家があったんだって。それで女の人は自殺しちゃったんだけど……地面には、今でも女の人が大事にしてたでっかい人形が埋まってるって言うんだよ」
「ほう。それで?」
「あの土地に無闇と入っちゃダメなんだ。人形があの土地を守ってるからな。踏み込むと人形の番人に襲われて殺される。絶対に番人に見つかっちゃいけないし番人と目を合わせる前に逃げないといけない!そして番人がいない時であっても、土地に埋まっている人形を見つけてしまうと……自分が生きたまま土に埋められて殺されちまうんだって!怖いだろ?なー兄貴怖いだろー!」
「は、はあ」
なんだか微妙にごっちゃりした怪談である。人形の番人と埋まってる人形、どっちかだけにした方がすっきりするだろうに。
僕はその時は、曖昧に笑うだけに留めたのだった。だが。
「……兄貴、どうしよう」
そんな話をした、一週間くらい後のことだったのである。弟が真剣そのものの顔で、僕に相談してきたのは。
「俺、人形の番人、見ちゃったかもしんね……しかも」
「しかも?」
「カマキリ怪人の姿してた!グレンライダーの敵の!」
「はあ!?」
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