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先述したように。うちの弟は、相当な悪戯小僧である。優等生とは程遠い、大人が“これだけはやるな”ということを嬉々として実行するタイプの男子だ。
そんな彼だから、夜中に家をこっそり抜け出して、深夜の町を歩き回るくらい普通にやらかすのである。しかも、一週間ちょっと前にそれをやった動機は“友達と肝試しをやりたかったので、三丁目のお化け屋敷とやらを下見しようとしていた”というのだからアホとしか言いようがない。
だが、彼はその夜廃屋の方には行かなかった。
家を出たところで、妙な音に気付いたからである。彼は非常に耳がいい。車も通らない通りの奥から、ざく、ざく、ざく、という音が聞こえてきて気になったというのだ。
そう、それは先日話した怪談――呪われた空き地の人形の舞台となっている、空き地から。
『まさか、番人がマジでいるのか!?と思った俺はそっちに行ってみたんだ。もしマジで誰かいるようでも、気づかれる前に逃げれば問題ねーしな!』
その日は満月。月明かりの下、弟は出会ってしまったという――空き地で地面を踏み鳴らして踊っている、カマキリ怪人に!
多分向こうは気づいていなかっただろう、と弟は言う。しかし、流石に声をかける度胸もなければ、それ以上近づいて調べてみる勇気もなく。そのままわき目もふらずに逃げてきて、今に至るというのだ。
『まさか、カマキリ怪人が実在してたなんて!な、なあ兄貴、兄貴いいい!グレンライダーに出動要請しなきゃ!ど、どこに連絡すればグレンライダーって来てくれんのかなあああ!?』
『……落ち着け弟よ。全力で落ち着け』
『そそそそ、そうだけどもおおおお!』
弟は、カマキリ怪人が本当にいたことと、それからカマキリ怪人が呪われた人形の番人であったことで二重にびっくりしたらしい。まあ、思い込みの激しい小学生ならそれも仕方ないことだろう。でも。
高校生の僕は違う。特撮番組に出てくるカマキリ怪人が実在したなんて当然思わないし、呪われた人形云々の話も信じていない。むしろ、疑ったのは別のことだ。
ゆえに僕はスコップをと軍手を装備した上で、土曜日の午前中から、空き地に続く坂道を登っているわけである。
――父さんの代でも、僕の代でも。七不思議は変わらない内容だった。……それが、弟の代になって一つだけ変化した。……ということは、誰かが……新しい七不思議を意図的に作って流した可能性が高いってことじゃないのか?
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