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 青の次は白。そして黄色。と色塗りが進んでいき、絵の完成図が想像できるようになってきた。稲光の中で正面を睨みつける龍が生き生きと描かれている。近いと大きすぎて全体像がわかりづらいけれど、遠くから見るとさらに映えるのだと思う。 「かっこいいね。ブロックカラーの青が目立ってすごくいいよね?」  休憩時間に私が百合花に話しかけると、百合花も若干興奮気味に頷いた。 「うんうん。青だけ塗ってるときはよくわからなかったけど、だんだん完成に近づいてくるといい感じだと思う」  百合花はなんだかんだ言いつつも、毎回色塗りのほうに私と一緒に出ている。 「美術部の先輩が描いたんだ」  菅谷君が言った。いつもは何を考えているかわからない彼の目が、得意げに輝いていた。  菅谷君、こんな表情もするんだ。 「へえ、涼太の先輩の絵なんだ。俺、好きだな」  上嶋君の言葉に、私も百合花も大きく頷いた。 「当然だろ。先輩の絵はいつだってかっこいい。この絵の下に応援席が来るから、絵パネを出したときは繋がってさらに大きな絵になる」 「そうなんだ、楽しみだね!」  七月ももうすぐ終わる。さすがに校舎裏の日陰でも汗が出てくる。首にかけたタオルで額の汗をぬぐって、空を仰いだ。雨の日が確実に減って、夏の雲が空に立ち昇る。  ――と、視界に小さな白いものが入って、私は目を凝らした。  四階の窓から私たちの作業を見下ろしている、白衣を着た人物がいた。知らない先生だった。 「新堂先生だ」  私の視線をたどったらしい上嶋君がそう言った。 「知ってるの?」 「うん。物理を教えてもらってるよ。なんて言うか、若いのに暗いんだよな。悪い先生じゃないんだけど。専門は地学らしいよ」 「そうなんだ」  二年からは理科の授業が、理系と文系で選択が変わってくると聞く。  理系は物理、化学が中心になり、文系は生物と地学に分かれるらしい。  地学、興味があるんだけれどな。 「佐藤さんは、理系と文系、どっちに進むか決めてる?」 「う~ん、まだちゃんと決めたわけじゃないけど、物理は難しいなと思う」 「そっか」  どこか残念そうに上嶋君が言った。 「休憩終わり! 夏休み入るまでに仕上げるよ! みんな頑張って!」  三年の先輩の声がして、私は、 「暑いけど頑張ろうね」  と小さく上嶋君に声をかけて、刷毛を手にした。
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