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 体を動かすのは好きだ。百合花は創作ダンスの時間がきつくて好きではないみたいだけれど、私は日差しが強くて暑い校庭での練習でなければ授業を受けているよりか断然楽しかった。  創作ダンスはテーマにそったダンスで約六分。青ブロックの今回のテーマは「嵐のあと」だった。ダンス部長を中心に三年生が一つひとつの動きに対して「雨が降ってきた様子を表してる」などの説明をつけて教えてくれる。正直、説明と合っているかピンとこないときもあるけれど、動きは個性があって面白いものが多かった。曲は何曲か繋げてあってどれも知らない曲だった。それでも毎日聞いていると体が反応するようになるし、思い入れも強くなる。テーマを感じながら、手の指先まで意識をして、体を動かす。最初は出だしの一分のみの動きから。みんなが覚えてきたら次の一分、と段々と覚える動きが多くなる。 「六分て長いよね」  廊下で練習の合間の休憩時間に汗を拭きながら百合花が話しかけてきた。私は先ほどまで習っていた動きを復習するように動きながら、 「そうだね」  と答えた。 「愛菜さ、休憩時間なんだから休んだら?」 「うん? 休んでるよ。ちょっとおさらいしてるだけ。なんか忘れそうで」  そう。どんどん覚える動きが増えるので前のを忘れてしまいそうになるのだ。 「そりゃ普通に忘れるでしょ。そこまで完璧求めてないよ」  百合花はダルそうだ。 「でもさ、ダンス部長とか必死じゃん。こういう動き、夕方遅くまで残って作ったって聞いてるよ。なんかそういうの聞いたら頑張らなきゃって思うんだよ」  私はそう言って、動くのをやめて、水筒のお茶を飲んだ。 「愛菜ってさあ」 「何?」 「中学生の時、学級委員とかしてなかった?」 「え? してたけど、なんで?」 「んにゃ。なんか分かるなあ」 「何が?」  私には百合花の言うことが分からない。百合花ははあっとため息をついた。 「いいのいいの。それより次、校庭で今までのところまで通し練習だよ」  私はそうだったと思い出した。体育祭の練習の時は裸足で分刻みで行動しなければならない。他のブロックの練習もあるため、持ち時間が限られているからだ。今から走って校庭に行かなきゃならないことを考えるとげんなりする。特に晴れの日の校庭は焼けるように暑い。足の裏が火傷しそうになるし、日陰もない、帽子もない、と最悪な環境だ。私はもう一度お茶を飲んだ。  ぴーっという笛が鳴り響き、 「休憩終わり! 校庭まで移動してください!」   と先輩たちの声がして、私たちはバタバタと廊下の端からでて、校庭に向かった。  私たちの前に校庭を使用していたのは、青ブロックの男子だったようだ。走って移動している途中、すれ違う男子の中に上嶋君を見つけた。なんでこんなに簡単に見つけられるのか不思議だ。好きになるとその人だけが色彩が違うように鮮やかに見える。私は目で挨拶した。上嶋君もふっと目を和らげた。上半身裸の上嶋君を見るのは初めてで、なんだか心が落ち着かなかった。上嶋君はマッチョまではいかない、細マッチョという感じだ。運動している人の体だ。体操着を着ている時は細身だと思っていたので驚いた。そして、一瞬見ただけの上嶋君の体を自分がよく見ていることにも驚いた。自分はいやらしいと恥ずかしくなった。
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