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6
応援コンテストの練習が本格化してきた。
スタンドの絵はまだ飾られていないけれど応援席は完成していて、それぞれのブロックは与えられた時間にスタンド席に座って応コンの練習をした。
一生懸命声を出しているのに、顔の前にあるパネルに自分の声が当たって返ってくる。応コン長が、「みんなもっと声出して! 全然聞こえないよ!」と言っているのが分かる気がする。自分でもどのくらい声が届いているか不安になるし、応援歌を歌うのに必死になれば今度はパネル操作を間違えてしまう。
「愛菜、毎回必死過ぎ〜」
百合花に笑われて、私は、
「え? 必死かなあ」
と言い返す。
「ほんと、佐藤さんはなんでも一生懸命な感じ」
上嶋君までそんなふうに言った。
「だ、だってパネル操作間違ったら向こうのブロックスタンドから丸見えだし、声もなんだか向こうまで聞こえてる感じがしないから」
「誰も愛菜が間違ったかなんて分からないよ。しれーっと誰か間違ってたねって顔してればいいんだって」
「百合花は器用で間違えないからそんなこと言えるんだよ」
「だよな〜。俺も間違えたくないから結構いっぱいいっぱい」
私は「上嶋君、実は仲間だ」と嬉しくなって、上嶋君を見た。目が合うと、上嶋君は目で優しく微笑んでくれた。
爽やか。優しい。やっぱり、上嶋君、いいな。
「ダルい。俺は別に間違ってもいい」
菅谷君は菅谷君らしさ全開だった。
「うわー、あたしよりやる気ない」
「応コン、優勝したくないのか?」
「別に。そりゃまあ、負けるよりかは勝てたらいいね」
「またお前は他人事みたいに」
私は菅谷君の前に乗り出した。
「菅谷君、でもさ、スタンドの絵に繋がる絵パネを誰かが間違って逆さに持ってたら絵が完成しないよ? 嫌じゃない?」
私の言葉に菅谷君の片眉が上がる。
「そんなの嫌とかじゃなくて論外だろ。なんのために何時間も色塗りしてきたんだっての」
「それと一緒だよ。みんなでパネル操作して絵文字作るんだから、間違ったら雰囲気壊れるし、やるからには勝たなきゃなんか悔しくない?」
「愛菜さすが、委員長キャラ〜」
百合花の言葉に上嶋君と菅谷君が、「ほんとほんと」と頷くのを見て、私は恥ずかしくなった。
「もうっ! やめてよ、百合花!」
「あたしはじゃあ愛菜のために頑張るわ」
百合花が言って、
「俺も!」
と上嶋君が笑い、私は自分の頬がポッと熱くなるのを感じた。きっと深い意味はないんだろうけど嬉しい。
どうしよう。私の気持ち、上嶋君に伝わっちゃってないかな。でも、百合花言ってたっけ。上嶋君のほうが好きって伝わったほうがいいって。
そんな中、
「俺は絵のために」
と菅谷君はあくまでマイペースに言った。
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