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「え?あ、スカーフをテムズ川へ落としてしまったの。そしたら側に日本人の男性がいて、くしゃみをしている私にたまたま持っていた新品の予備のマフラーを貸してくれたの」
「貸してくれた?」
「そうなの。音楽好きな人で私のことを知っていたの。コンクールの受賞者だということを言い当てられた」
「へえ?それはすごいね。嬉しかっただろ?」
百合が自信をなくしているのを今日のリハーサルでも目にしていたので、急に元気になっている今の状況はそういった理由だったんだろうと勘のいい神楽はピンときた。
顔を赤くして照れる百合は可愛かった。
「……そうね。それで、あさってのコンサートに席を探して必ず行くからその時に返して欲しいと言われたの。終演後楽屋を訪ねると言ってたわ。チケットってまだあるの?」
「あさってかい?うーん。もしかするともうないかもしれないな」
「え?それはまずいわ。このマフラー、その人へのお母様からのプレゼントだったらしいの」
「名前とか聞いている?もしそれならこちらで関係者席を一席空けて受付でチケットを渡してもいいが……」
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