友人として

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 ホールは総立ちになり、ブラボーという沢山の声が響いた。    彼女は指揮者にエスコートされて演奏後二度ほど出てきた。  その後、ショパンのエチュードをアンコールで弾いて終わった。黒鍵のエチュード。黎も好きな曲だった。  受付で預けていた花束を受け取り、楽屋を訪ねようと場所を聞いて廊下を歩いていたら、突き当たりの部屋の前に見た顔がある。  「やあ、久しぶり。堂本、元気だったか?」  神楽だった。学生のときよりも大人びていい男になっていた。苦学生だった彼は、今は立派なスーツに身を包み、昔の面影がない。目も鋭くなっている。  「ああ、久しぶりだな。卒業以来会ってなかった。元気そうだし、立派になったな。今日はチケットをありがとう。料金の代わりといってはなんだが、この商品券良かったら使ってくれ」  胸ポケットから商品券の箱を出して、神楽に渡した。  相変わらず気が回る男だと神楽は嘆息した。  「……別に良かったのに。知り合いなんだから、奢られとけよ」  「いや、いいよ。今後チケットが取れなかったら君に頼りたいからね。ここは恩を売るのが正解だ」  黎は神楽を見て笑った。
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