友人として

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 「え、えっと。そうですね。弾く前は堂本さんに褒めてもらいたいと思っていたことは事実です。私、弾き出すとあまり音楽以外のことは考えないので。でも気持ちが前向きになるので良い演奏になります」  黎は彼女の言葉と表情を見て自分の中にあった、言い訳や迷いがすっ飛んだ。あることを心に決めた。そう、友人だけでは足りない。だが、とりあえず友人にならないと何も前に進まない。  百合は鞄から大小ふたつの袋を取り出した。  「これ、マフラー。一応、急ぎでホテルのほうへクリーニングを頼んで上がってきたので綺麗にはなっていると思います。大切な品をお貸し頂きありがとうございました。あと、これはホテルの紅茶です。この間アールグレイ同じ銘柄頼まれましたよね?私、このアールグレイが大好きなんです。あの紅茶よりも味わいがあるのでよろしければ飲んでみて下さい」  彼女は彼にそれを差し出した。  「ああ、ありがとう。紅茶は楽しみだよ。気を遣わせて悪かったね」  そう言って、彼女から受け取ったその袋を鞄にしまうと、中から違う箱を取り出した。  綺麗なピンクのリボンがかかっている。  「代わりにこれをどうぞ」
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