1237人が本棚に入れています
本棚に追加
「いや。マフラー、すまなかったな。彼女はそれのおかげで風邪を引かずにすんだかもしれない」
「役に立って良かったよ。それじゃ、また」
手を上げて去って行く彼を神楽はじっと見つめ、頭を振ると百合のいる控え室へノックをした。
「はい」
「俺だ。帰るけど準備はいい?」
「ええ。入ってちょうだい」
中に入ると、まだドレス姿の彼女がいた。
「百合、まだ着替えてなかったのか?」
「え?ああ、堂本さんが来るってわかってたから、なんとなく着替えないでお会いした方がいいかなと思って……」
百合が顔を赤らめて言う。神楽はギリギリと手を握った。
「……じゃあ、着替えて。外に居るよ」
「はい。ごめんなさい。すぐに着替えます」
外に神楽は出た。そして扉に背を預け、ため息をついた。
恐れていたことが起きた。今後彼が近寄ってこないとは今日の様子からとても思えない。
黎は、神楽に遠慮するようなタイプでもない。何を話したのかあとで問い詰めようと決めた。
着替えて出てきた百合は疲れていた。緊張もあったのだろう。安心したのか、あくびをしている。
最初のコメントを投稿しよう!