新たな事業

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新たな事業

 日本へ帰った黎は、空港へ迎えに出てきた秘書兼運転手の柿崎にズバリ切り込まれた。    柿崎は黎より四つ年上だが、そう年は違わない。長く家に仕える一族だ。小さい頃から一緒にいた。幼馴染みのような、家族のような存在だ。彼は最近実家の家政婦の女性と結婚したばかりだ。  「黎様。何かいいことがありましたか?」  「え?」  「今までになく嬉しそうです。そんなお顔久方ぶりに見ましたよ」  「そうだな。向こうで偶然コンサートに行って、良い演奏を聴いたんだ。心が洗われた」  「それは良かったですね。それだけですか?」  「何だ?」  「いいえ。それにしては……そうだ、奥様はお元気でしたか?」  車のミラー越しにこちらを見て聞いてくる。  母は柿崎を可愛がっていた。柿崎は母が英国へ療養に行くと決まったとき、会えなくなるのを本当にさみしがっていたのだ。    柿崎の母もやはり実家で働いていたが、柿崎が中学の時に早世した。それ以降、黎の母親は柿崎を自分の子供のように気を遣い可愛がってきた。そのせいもあるだろう。
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