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「……あの、えっと」
黎は腕時計を見ると、彼女の言葉を遮った。
「ごめん、時間がないからこれで失礼するよ。タクシー拾ってあげようか?どこのホテル?」
「いえ、大丈夫です。あと、三十分くらいで近くにマネージャーが迎えに来ますので」
「そう。じゃあ、ここでゆっくりしていたら?お支払いはしておくからね」
そう言うと、名刺を出して裏に電話番号とメアドを書く。
「これが俺のプライベートの番号。何かあれば連絡して」
「あ、あの、私の番号は……」
「あさって、必ず行く。その時に教えてくれ。じゃあ、演奏を楽しみにしているよ」
そう言って、黎は出口でふたり分の支払いを済ませると出て行った。
彼は、満足げに久しぶりの笑顔を浮かべていることに自分では気付いていなかった。
百合は取り残されてその名刺を手に取り、じっと見つめた。
『堂本コーポレーション 東京営業本部 堂本 黎』
そう書かれていた。堂本コーポレーション……聞いたことがある。結構大きな会社のような……。
しかも、同じ名字。もしかして、会社の関係者?
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