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百合は社会的なことをあまり知らず、音楽ばかりやってきたので、その会社が日本では同業他社の中で一番大手であることさえ知らなかった。
でも、目の前の彼は身なりも良く、美男子で、女性の扱いに慣れている風だった。
百合は初対面で、しかも男性なのに、お茶に誘われなんで付いてきてしまったのだろうと今頃気付いて考えた。
日本だったら絶対こんなことはない。おそらく、異国の地で困っていたときに声をかけられたから、つい心を許してしまったのかも知れないと自分を納得させた。
しかも、自分を知っていた。それは彼女にとって、とても嬉しい出来事だった。実は、テムズ川を見ながら落ち込んでいたのだ。
コンクールの受賞者とはいえ、まだ演奏活動を始めてから一年と経っていない。
自分に自信がなくて、演奏に迷いがあり、ぼおっとしていたせいもあってスカーフをなくしたのだ。
自分の実力がどの程度か、指揮者だけでなく、オーケストラのメンバーからどう思われているのかそんなことばかり気になってしまい、今日の練習でも気がそぞろで演奏を止められた。
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