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そんなとき、彼に声をかけられ、しかも自分を知っていると言われたのが認められているかのように聞こえて嬉しかった。
話してみれば気さくでいい人だった。
音楽が好きらしいのはすぐにわかったし、演奏を聴きたいと言ってくれた言葉が、彼女に自分を取り戻させた。
コンサートに向けて心を前向きにさせてくれた。
彼に褒めてもらえるような演奏をしたい。百合はその時そう思ったのだ。
気付くと、窓をマネージャーがトントンと叩いている。外は暗くなってしまっていた。
彼女はマフラーを巻き、コートを着て身支度をして、席を立った。この後は、事務所関係者とディナーの予定だった。
マネージャーの神楽は今日の昼間、リハーサル後百合と別れたとき、元気がなかったのを心配していた。
ところが、今は明るく元気な彼女に戻っていたので安心した。どうやって元気づけようかと考えながら来たからだ。
とりあえず、良かったと彼女を見つめる。すると、百合が昼間していたスカーフが男物らしきマフラーに変わっているのをめざとく見つけると、問いただした。
「百合、そのマフラー買ったのかい?男物みたいに見えるけど……」
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