序章

4/13
前へ
/15ページ
次へ
「まだ。……いや、決まっているんだろうな」  その言い方はまるで自嘲のようにも感じられた。  自分を卑下した厭な笑い方だ。紫水はよくこの表情を見せる。剣道部入部の際、賞状を貰う際、教師から褒められた時でさえ、喜べば良いのにそこには影がある。 「なぁ、紫水。ちゃんと言わないと高校受験の時みたいに勝手に決められるぞ?」  俺は紫水の前に立ち塞がって声を荒らげる。  兄の高校受験はほとんど両親が決めた。紫水は既に何事に対してもやる気を無くしていて、募集締め切り直前になっても高校を決められずにいた。  どこの学校に行きたいか聞いても、彼は困ったように笑うだけでどれも反応は同じだった。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加