秋の行楽シーズン

3/3
75人が本棚に入れています
本棚に追加
/112ページ
「よし。今日は早めに切り上げるぞ」  店舗自体は台風の影響で既に閉めてあるので、あとは諸々の手配だけだ。変更を余儀なくされたツアーのフォローを急ぐ。本気を出した宮原は、仕事が早い。  手早く仕事を片付け、皆でシャッターを下ろして外に出ると、随分雨風が強くなっていた。 「急いだ方がいいな。ちょっと買い足したいものがあるから、桃瀬は先に大介のところに行っててくれ。通り道で降ろすから」  家飲みは昨日の時点で決めていたので、買い出しは済んでいると聞いていた。ひなたのリクエストで、チーズフォンデュにするらしい。 「そうだね! りっちゃんは先に行ってて」  何か企んでいる時のひなたは、分かりやすい。目を三日月に細めて、ふふ、と笑うひなたに、律は素直に頷いた。  ひなたはサプライズが好きだ。睦美の誕生日など、こっそり買って来た花束を見つけても、知らない振りで驚いてあげるのが恒例だった。ひなたは愛されている。  大介の住んでいるマンションは、シンプルな外観の、背の高い茶色の建物だった。 「じゃあ、僕たちあとから行くから!」 「はい」  どこか嬉しそうなひなたと宮原を見送り、1人でマンションに入る。1階入口で、教えてもらった部屋番号を呼び出すと、少し慌てた様子の大介の声が聞こえた。 『あ、早かったんだな。ちょっと、あの、』  まだ何か話していたようだがプツリと切れ、オートロックが解錠されて自動ドアが開いた。 「? まあいいか」  そしてエレベーターで7階、部屋の前まで進むと、律の胸はドキドキした。  大介に会うのは、2週間ぶりだ。  ……実は、とても楽しみにしていた。この2週間ずっと、会いたいと思っていた。やっと会える大介に、恥ずかしいやら嬉しいやらで、勝手ににやける顔を意識して引き締める。  ひなたにアドバイスを受け、じっくり吟味して選んだ手土産のワインを確認する。服装におかしなところがないか、前と後ろ、首を捻ってチェックする。  ──よし、大丈夫!  律は、そっと、インターフォンを押した。
/112ページ

最初のコメントを投稿しよう!