古傷は忘れた頃に

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 雷が、ゴロゴロと響いている。 「俺自身はストレートだと思ってたから、男性を好きになったのは初めてだよ」 「え?」 「え? ……あっ」  大介が、パッと口を手で覆った時、ピカッと窓の外が光った。……ん? 今、何か大切なことを聞いたような──その時、奥の部屋の扉がバン! と勢いよく開いた。 「雷だよ! ねぇっ、大ちゃん! ベランダ出ていいっ!?」  テンション高く興奮したひなたが、満面の笑みで部屋を飛び出して来た。窓の外が、ピカピカと光る。 「えっ、ひなた先輩?」 「あ! また光った! きれい!!」  窓に駆け寄ったひなたがガラスにへばりつくと、メキメキとひねり潰すような音に続いてバキ! ドカン! と振動が伝わる程の爆音が落ちた。  律の体が、ビクッと揺れる。  今のは大きかった。 「ほら、開けたらだめだよ」  窓を開けようとするひなたを、後ろからついてきた宮原がやんわりと制している。 「ベランダもだめだ、濡れるだろう?」  窓の外は嵐だ。稲光がくっきりと光り、バキバキと轟音を立てている。おそらく、今がピークだろう。 「え、ひなた先輩って、もしかして……」 「うんっ、雷、大好き!」  目が、らんらんと輝いている。  え、信じられない。 「ひなたは昔から雷が好きだな」  大介も並んで、窓の外を眺めた。 「台風がこっちに直撃するのも久しぶりだ」 「ああ。大介、店の方は大丈夫なのか? ……ん? 耳が赤いぞ」 「っ、何でもないよ。店は大丈夫だ」  ひなたが、窓の外を指差す。 「また光った! きれいだね」  その稲光が落ちた先で大惨事が起こっていなければいいが……。  強い風で雨粒が窓に叩きつけられているのが、離れたところに座っている律にもよく見えた。いや、雷が怖くて窓に近寄れない訳じゃないよ?
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