古傷は忘れた頃に

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 にこにことしばらく雷を見ていたひなたは、やがて、ふと言った。 「あのさ……さっきのあの人、無事に帰れたかな」 「里佳子さんか? 大丈夫だよ」  ひなたは基本的に優しい。嫌な思いをしたというのに、彼女のことを心配している。 「彼女の家、車だとここからそんなにかからないから。酷くなる前に着いてるよ」  大介の言葉に、宮原があきれたような顔をした。 「何だ。それなのに、お前を呼び出してわざわざここに来たのか?」 「そうなるな」  大介が苦笑する。 「でも、もう一度ちゃんと話さないと、とは思ってたから」 「まあ、優しすぎるお前にしたら、はっきり伝えたことは上出来だ」 「朔たちがいてくれたからな。2人きりだと、ここまで言えなかったかもしれない。……少し、言いすぎた気もするが」 「いや、相手を思うなら、残酷なようでもはっきり言った方がいい。それが相手のためだ」  宮原が、律を振り返る。 「これで里佳子さんも、前に進めるだろう。桃瀬も、そう思うだろう?」 「………」  ──そうだ。大介は彼女に前を向いて進んでもらうためにも、はっきり伝えたんだ、『もう気持ちはない』と。冷たい酷い人間だと思われるかもしれないのに。  律は前の彼に、『もう冷めた』と言われた時のことを思い出した。律が追いすがる度に、何度でも繰り返し『無理だ』と言われたことを思い出した。彼も……自分に、前を向いて進んでほしかったのだろうか。  別れるからと言って、相手のことがどうでもよくなる訳ではない。一度は好きになった人なのだ、大介は彼女に幸せになってほしいと思っているだろうし、律の前の彼も……そう思ってくれていたのかもしれない。彼は、優しい人だった。  もちろん、中にはこじれて恨みだけが残る人もいるかもしれないが……律はそうなりかけて、城探求に無理矢理意識を向けたところもある。そんな自分が、少し恥ずかしくなった。 「大介も、次に進まないといけないしな。……耳が赤いぞ」 「っ、そろそろ始めるか」  大介が耳をぱっと払いながら、テーブルに戻って来た。ひなたもテーブルの上のチーズフォンデュに目を移す。 「うん! お腹空いちゃった。食べよ!」  すっかり元気になったひなたが、はしゃいで席に着いた。
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