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りっちゃん初添乗おめでとう会
ゴロゴロと鳴り響く雷の音をBGMに、律の『初添乗打ち上げ会』は楽しく進んでいった。
律が持参したワインが開けられ、雷にテンションが上がったひなたは、よく食べよく飲んだ。
色よくボイルされたエビにトロリとしたチーズを絡めて、ひなたが頬張る。
「大ちゃん、このエビ美味しいね!」
「ほらひなた、野菜も食べろよ」
宮原に世話を焼かれるひなたは、幸せそうだ。
聞くと、今日の準備は里佳子ではなく大介が全部したらしい。『難しい料理は無理だが茹でるくらいは』と言う大介は魚介や野菜の下ごしらえもしたそうで、律が好きなブロッコリーの茹で加減もちょうど良かった。
律も料理はする方だが、今のように店が繁忙期に入ると、外食や出来合いのものが増えてしまう。
久しぶりの美味しい食事を満喫しながら、社員旅行の思い出話にも花が咲いた。会長の米寿祝いの話など、ひなたは身を乗り出して聞いていた。
「いただいたショールは、毎日使ってるよ。気に入ったみたいだ」
「ほんと? 良かった!」
ひなたが宮原を振り返って嬉しそうに笑う。米寿祝いに宮原が会長に贈ったショールは、ひなたも一緒に選んだものだ。
「あれから、会長はお元気にされていますか?」
「ありがとう、お陰様で元気にしてるよ。でも、会長職は引退することになった」
「そうなんですか」
「ああ、もう歳だからな。引退して、多津乃湖に住居を移すことになったんだ。向こうでのんびり暮らしたいって言い出して」
旅行から帰った千代は、すぐに引退を口にした。もう名ばかりの会長職とはいえ千代がいることで引き締まっていた部分は大きいので、名前だけでもと引き止める声は多かったが、本人の決心は固かったそうだ。
そして皆に惜しまれながらもようやく引退が認められると、千代は多津乃湖に引っ越すと言い出した。
「え? でも確か、向こうにご実家はもうないんですよね?」
「そうなんだが、福美神社さんのところにお世話になるみたいで……」
住むところまで決めていた千代にびっくりして、すぐに福美稲荷神社の神主に連絡をとると、
『ええ、千代さんですよね? お伺いしています。うちにいらしていただいて構いませんよ、 離れに十分空きがありますから。ご心配には及びません』
これまでも何人か受け入れてきたという神主は、朗らかに言ったそうだ。律は、白い斎服を身に着けた優しそうな年輩の神主を思い出した。
「この前の旅行で、すっかり里心がついたみたいなんだ。寂しい限りだが……」
大介は、おばあちゃんっ子だ。寂しそうに肩を竦めた。
「年内には向こうに引っ越すことになると思う。……何だか、会長を嫁に出す気分だよ」
律は、社員旅行の夜に神社の裏の高台で、着物姿の背の高い男性と抱き合っていた千代を思い出した。結局、あの男性が誰なのか、大介も分かっていない。
「大袈裟だな。いつでも会いに行けばいいじゃないか」
「──そうだな」
宮原に言われて、大介は緩く笑った。
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