104人が本棚に入れています
本棚に追加
それから、分かりやすいひなたの合図でサプライズケーキが登場し、律は大いに驚いて喜んだ。
真ん中のクッキープレートには、『りっちゃん初添乗おめでとう!』と書いてある。
美味しそうなフルーツケーキは、ひなたに特に大きく切り分けられ、皆で改めて乾杯をした。
最初に里佳子が出てきた時はどうなることかと思ったが、思いのほか楽しい時間はあっという間に過ぎていった。いつの間にか、窓の外は嵐も通り過ぎて静かになっている。
いつしか満足したらしいひなたは、うとうとと眠そうにしていた。
「そろそろ失礼するよ」
帰り支度を始める宮原は、今日は酒を飲んでいない。
「何だ、泊まっていかないのか?」
「今日はひなたを連れて帰る。また今度な」
里佳子とのやりとりや、その後ひなたが泣いたことから帰ることにしたのかもしれない。
「あ、じゃあ僕も……」
律も立ち上がると、宮原にじろりと睨まれた。
「どうやって帰るんだ? 電車は止まってるが」
「え、あの、僕も一緒に……」
何を今さら? 行きしなも乗せてくれたのに。
すると宮原が、ふん、と鼻から息を吐いた。
「何でお前を送らないといけないんだ。お前は残って後片付けを手伝え」
「え、でも」
「大介、いいだろう? こいつは泊めてやってくれ」
「それは構わないが……」
「よし。──ほら、ひなた。帰るぞ」
「んー」
眠そうなひなたを立たせて、玄関へ向かう。
大介が、残りのケーキを詰めた箱をひなたに持たせた。
「今日はありがとうな、ひなた。今度また、だいだいもち持って行くよ」
「ありがと、大ちゃん。りっちゃんも、おやすみ」
ひなたは半分、夢の中だ。
靴を履きながら、宮原は大介に顔を寄せた。
「……明日は桃瀬、休みだから。がんばれよ」
「っ、」
律にもはっきり聞こえるように囁いた宮原に、大介が苦笑いを零す。これはもう、色々と知られていること確定だ。
「じゃあ、大ちゃんまたね。りっちゃん、また店で」
欠伸をしながら宮原と帰って行くひなたを見送りドアを閉めると、2人してしばらく固まった。
最初のコメントを投稿しよう!