お盆返上でがんばります

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お盆返上でがんばります

          ◆  世間はお盆休みに入り、蝉が一層賑やかになった。  その声に急かされるように、律も慌ただしい日々を送っている。もともとリアルタイムでのお盆休みなどはないが、お盆返上で業務に追われていた。  今回の月島屋の社員旅行は、大人23名、子供2名の計25名だ。  福美稲荷神社のもみじ祭りは土日を挟んで1週間行われるが、その中で千代の指定した9月27日は秋社日にあたる本宮祭だった。その日は水曜日と平日なのでホテルも大丈夫かと思ったが、甘かった。有名ではないにしろ、やはり祭りは祭りだ。  多津乃湖は温泉も出ない土地柄ということもあり、元々宿泊施設は少なかった。その上、もみじ祭りは地元住民に向けたお祭りで外からの観光を目的としていないのか、山側は特に宿泊施設が少ない。街側の花祭りだと観光客を広く受け入れているのだが、その点山側はまだまだ閉鎖的だった。  月島屋は大介の祖父に当たる人物が創始者で、既に亡くなっている。その後は妻である千代を会長に、娘たち3人姉妹がそれぞれ経営に携わっていた。  長女である現社長は養子を迎え、息子が2人いる。長男は次期社長として現在本店の店長、次男が製造課長である大介で和菓子職人だ。会長が男児に恵まれなかったこともあり、跡取りを2人も産んだ大介の母親は親戚の中で確固たる地位を確立したらしい。  月島屋は本店の他に2号店と3号店があり、3姉妹の次女と三女がそれぞれ経営に当たっている。  大介の話では、家族ごと、店のスタッフごとの部屋割りなので、計8部屋が必要だった。 『日にちが迫っていることもあり、1つの旅館で8部屋の確保が厳しい状況です。宿泊施設を数箇所に分散していただく方向で調整したいのですが……』  大介とはメールでのやり取りが多かった。お盆の時期は和菓子店も忙しいようで、携帯電話の番号も交換したが、気軽にかけるのは気が引ける。  すぐには返ってこないメールにやきもきしながらも、返事を待つ状態だった。
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