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「すまない、どこかで親族会議の時間をとりたいんだが」
月島屋の3号店に行ったついでに、と寄ってくれた大介は、接客中だった律を快く待ってくれた。
手土産のわらび餅をいそいそと冷蔵庫にしまったひなたは、今カウンターで別客の対応をしている。宮原は外出中だ。
「お待たせしてすみませんでした。ええと、親族会議ですか?」
「ああ。ちょっと早急に話し合わないといけない案件が持ち上がって……どうせなら、親族が集まるこの機会がいいだろうということになったんだよ」
大介の表情はあまり冴えなかった。
何かあったのだろうか?
律は行程表を広げつつ、思案顔になった。
「そうですね。それでしたら、初日の旅館到着後か……遅くなっても大丈夫でしたら夕食後か、あとは2日目の午前中とか……」
観光が少ないので、2日目の午前中はぜひ遊覧船を楽しんでもらいたいところだが。
「あまり楽しい議題ではないからな、できれば米寿祝いが終わってからの方がいい。酒が入るとろくな事にならないから、2日目の午前中がいいと思う」
遊覧船がまるまるなくなるのかと涙を呑んだ律だったが、親族会議の間に従業員だけ案内する方向で話がまとまった。
早速、親族会議の場所を確保すべく律が旅館に電話をかけていると、その間に宮原が戻ってきた。大介と挨拶を交わし、隣に腰を下ろしたところで、律は電話を切った。
「親族会議の場所ですけど、米寿祝いの大広間を使わせていただけることになりました」
「そうか、ありがとう」
律が書き込む進行表を覗き込んだ宮原が、首を傾げる。
「親族会議? せっかくの旅行中にそんなことするのか」
あ、言いにくいことをあっさり言った。
「ちょっとな」
「何だ。穏やかじゃなさそうだな」
大介は疲れたように、宮原を見た。
「……3号店を、たたむかもしれん」
「え」
3号店も、もちろん社員旅行のメンバーに入っている。ただ、3号店は従業員が参加しないと聞いていたので、夫妻と娘の3人のみだった。
大介は少し言いにくそうに、身内の恥だが、と前置きをした。
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