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「本人は要領良くやってるつもりだろうが詰めが甘すぎるし、フォローが全くできてないんだよ。浮気くらい、俺ならもっと上手くやるけどな」
「さくちゃんっ!」
悲鳴のような声が聞こえて振り向くと、ひなたがこの世の終わりみたいな顔をして立っていた。接客が終わったようだ。
「ありがとうございましたー」
睦美の声と共に自動ドアが開いて、家族連れが帰って行く。あ、木嶋さんいたんだ。
「さくちゃん、ひどい! 浮気してるのっ?」
宮原に詰め寄るひなたの大きな瞳に、みるみる涙が溜まる。
「何言ってるんだ、ひなた。そんな訳ないだろう」
「だってっ」
宮原がゆっくり立ち上がる。
「だってさくちゃん、今……っ、」
ひなたの頭に手を伸ばしてぐいと胸に押し付けた宮原は、みるみる笑顔になった。え、何で笑ってんの? 怖いんだけど。
「やきもちを焼いてくれるのか、ひなた! すごく嬉しい」
宮原が、ぎゅっとひなたを抱きしめた。
「バカだな。話してたのは、ブロッサムに来るキャバ嬢のことだよ」
ブロッサムは、宮原が時々ヘルプに入っているホストクラブの店名だ。
「ナンバーツーの雅、 知ってるだろう? 太客のキャバ嬢が鉢合わせて、揉めたんだ」
そんな話は微塵もしていない。
ちなみに宮原がヘルプに入った時のナンバーワンは、宮原だ。
「客のあしらいくらい、俺なら上手くやれるって話だよ」
大介の親戚の話をするのは憚られたのかもしれないが、息をするように口から嘘が出ている。これが現役ホストの神髄ってやつか。
「……ほんと?」
「当たり前だ。俺が、ひなた以外で勃つ訳ないだろう?」
「ん、」
何気に股間を押し付けているのは気のせいか。
「やだ、さくちゃんダメだって。あ、」
腰に手を回した宮原が、ぐいと股間を押し付けている。ひなたが恥ずかしそうに、もぞもぞと体を捻った瞬間、宮原の股間がちらりと見えた。……勃ってやがる。
「……じゃ、そういうことで。俺は帰るよ」
そんな2人に慣れているのか、大介が立ち上がった。
「朔、帰るぞ」
「おう、またな」
ひなたを胸に抱いたまま奥へ入る宮原を見なかったことにして、律も大介と共に店の外に出た。
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