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社員旅行へ出発!
◆
9月27日、水曜日。
月島屋社員旅行の当日は、見事な晴天に恵まれた。
『社員旅行のため臨時休業』の張り紙をした月島屋本店には、続々と従業員が集まって来た。
バインダーを片手に点呼をとる律は、左腕に『サクラトラベル』の腕章をつけている。今日は濃いグレーのスーツに、入社時宮原にもらったレジメンタル柄の桃色のネクタイを、気合いを入れて締めて来た。
月島屋本店は1階が店舗と厨房、2階に事務所と応接室、そして3階と4階が住居になっている。こちらには会長と大介の両親、兄夫婦と6歳の子供が住んでおり、大介は近くのマンションで1人暮らしをしているそうだ。
集まって来た人たちには一旦、2階で待ってもらっていた。
一番最後にやって来た三女家族は、先に歩く妻と娘に遅れながら、例の旦那が家族分の荷物を抱えて店に入ってきた。ジーンズに白のサマーニットが似合っている彼は、確かに50歳にはとても見えない若々しさだ。
「ああ、重い! 添乗員さん、バスまだ来てないの?」
入るなり荷物を入口に置いた旦那は、店舗に置いてある椅子にどっかりと腰掛けた。妻と娘は旦那を振り向きもせず、腕章をしている律に軽く会釈すると2階に上がっていく。家族の関係はこじれたままのようだ。
「おはようございます。バスは長く停められないので、10分前の到着です。今の間にお手洗いは済ませておいてくださいね」
時計を見ると15分前、優秀だ。
先程、今回乗車する観光バスは一度店の前を通り過ぎていた。辺りを流して、時間調整をしてくれているようだ。
律は奥の階段を上がり、2階に顔を出した。手前にいた大介に歩み寄る。
「大介さん、3号店の皆さんも全員揃いました」
月島姓が複数いるので、大介のことは名前呼びだ。
「そうか、ありがとう。会長を呼んでくる」
大介も今日はグレーのジャケットにベージュのチノパンと、ラフな格好が似合っていた。男前は何を着ても様になる。
上の階に上がる大介を見送った律は、寛いでいる皆に向かって大きな声を掛けた。
「すみませーん、あと5分でバスが到着しますので、皆さんご準備お願いしまーす! 出発したらトイレ休憩は2時間後ですので、今のうちに済ませておいてください」
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