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「はーい!」
律の声掛けに、事務所の一角で一際賑やかな女の子の集団が元気よく返事をした。本店と2号店のアルバイトの女の子たちだ。久しぶりに会ったようで、もう盛り上がっている。
その近くで職人らしい男性陣は、静かに待機しているようだった。こちらは20代から50代と、年齢幅が広い。律の声掛けに、荷物を持って立ち上がる。
皆が動き出したのを見届けて下に降りると、ちょうど観光バスが店の前に到着するところだった。
律が店を出たところで、丸みを帯びた貫禄のある車体がゆったりと停車した。磨き上げられたネイビー色の車体が太陽の光にキラリと輝いて、立派に見える。うん、このタイプのバスにして良かった。
挨拶をしようと近付くと、プシューッ、と重々しく扉が開いた。
中から、肩上くらいの栗色の髪を揺らめかせながら、華奢な女性が降りてくる。
「おはようございます」
「あ、おはようございます」
挨拶を返しつつ、律は不思議に思う。
……バスガイドは今回頼んでいない筈だが。
すると後ろから、がっしりと体格の良い男性が続いて降りてきた。
「おはようございます! よろしくお願いします、ミヤビ交通の中村です」
「サクラトラベルの挑顔です。よろしくお願いします」
ミヤビ交通とは何度か一緒に仕事をしているが、この運転手は初めてだ。
名刺交換をしていると、隣の女性も名刺を差し出してきた。
「早川です」
「あ、どうも……」
どうしよう。頼んでいないガイドが来ている。
この場合、帰ってもらってもいいのか?
「ええと……え? 早川哲夫?」
思わず、名刺と彼女を二度見した。
バスの運転手、中村が早川の肩をポンと叩いた。
「これは見習いの早川です。今回は業務補助ということで、同行しますんで」
「よろしくお願いします」
よく見ると、運転手と同じ格好をしている。
ハスキーな声は、若干低い。
あ、男性だ。危ない、もう少しで失礼なことを言うところだった。
律に会釈した早川は、バスの中に戻って行った。そのあとを追うように運転手の中村が続き、2、3段上がる形の通路を曲がり様に、する、と早川の尻を撫でた。ぱっと振り向いた早川が、にこっと笑う。
いや、見えてるよ?
てか、この2人……デキてやがる。
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