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何事もなかったように再び降りてきた中村が、持ってきたバインダーに挟んである業務表に、到着時刻を書き込んだ。ぺらりと紙をめくって、行程表を指で辿る。
「渋滞はなさそうなんで、予定より早く着きそうですよ。皆さん、もうお揃いですか?」
「はい、大人23名、子供2名の合計25名、お揃いです。ご案内して大丈夫ですか?」
中村は、バスの中をひょいと覗く。
「早川くん、大丈夫?」
「はい、大丈夫です」
座席を確認した早川がバスを降りると、店からアルバイトの女の子たちが出てきた。
「うわあ、バスがグレードアップしてる!」
「めっちゃ豪華じゃん! すごーい、何で?」
「ほら、今回会長も来るからじゃない?」
「そっか。てか、テンション上がるんだけどー」
……そうだろ、そうだろ。中も豪華だぞ? 何たって今回は乗り心地重視のグレードの高いゴージャスシートだ。
早速バスの前で写真を撮っている女の子たちに、律は嬉しくなった。
座席にゆとりを持たせている分、今回のバスにトイレはついていないが、そこはこまめに休息を入れる予定だ。バス旅行はお勧めだし、律も大好きなのだ。
月島屋の女の子たちは、なかなかに可愛い子が揃っている。特に一番はしゃいでいるポニーテールの子なんて、アイドルばりに可愛い。彼女たちがいるおかげで、旅も華やかになりそうだと律は思った。
女の子たちが写真を撮っていると、店の中から会長の千代を伴った大介が出てきた。社長には朝一番に挨拶したのだが、千代はこれが初めてだ。
「おはようございます。サクラトラベルの桃瀬です。今日明日と、どうぞよろしくお願いします」
歩み寄り挨拶をする律に、上品な若草色のツーピースに身を包んだ千代は、にっこりと微笑んだ。
「はい、よろしくお願いしますね」
きれいな白髪にふっくらとした頬は血色も良く、ほんのりピンク色だ。えくぼの寄った口元に、若い頃はかなりの美人だったのだろうと律は思った。
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