残念なイケメン

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 控えめに立ててある、だいだいもちの小さなのぼり旗を目当てに足早に近付く。月島屋は百貨店に店を構えていないので、出店する時はいつも期間限定で特設売り場だ。  逸る気持ちを抑えつつ、売り場に到着して、目を見開く。  最後の1つだ!  ああ、なんてラッキーなんだ。  喜びを噛みしめながら、その1箱を大事に手に取り、カウンターに置いた。 「いらっしゃいませー」  アルバイトだろう女の子が、にこにこと応対した。律は財布を取り出そうと、紙袋を置いてお尻のポケットをまさぐった。……ない。  女の子がにこにこと待っている。  あれ、どこに入れたっけ? ──あ、そうだ。ポケットにハンカチを入れるから、財布は紙袋に入れたんだった。  がさがさと紙袋を漁ると、回収したパンフレットの底の方に財布が見えた。律がしゃがみ込んでごそごそと財布を発掘していると、隣で人の気配がした。 「ありがとうございましたー」  女の子の明るい声にようやく財布を掴んだ律が立ち上がると、隣で紙袋を提げた男性が立っていた。既視感のあるこの男性は、さっき入口で腕をぶつけた残念な男前だ。 「え?」  男性が提げている紙袋には、月島屋の文字が入っている。そして、カウンターに置いた筈の最後の1箱は、なくなっていた。彼の紙袋の中にあるのは明白だ。 「え! あの、それ僕が買おうと思って、」 「あ、ごめんなさい。売り切れちゃいましたあ」  女の子が悪びれずに言う。 「でも、僕が先に手に取りましたよね?」 「えー、でもお支払い、まだでしたしい」 「でも、」  そんなやり取りに男性は律をちらりと流し見ると、興味なさそうに紙袋を提げて立ち去ってしまった。 「ありがとうございましたー」  女の子がにこにこと見送る。 「………」  自分よりイケメンを優先した女の子にこれ以上文句も言えなくて、立ち竦む。  と言うか、さっきの男性もこっちが先に買おうとしてたことに気付いてたんじゃないのか?  ああ、やっぱりあの男前は性格が悪い!  律はがっくりと肩を落として、百貨店を後にしたのだった。
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