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りっちゃんと愉快な仲間たち
◇
「お帰り、りっちゃん!」
サクラトラベルに帰社すると、カウンターの奥からぱっと人が飛び出した。
「ただ今戻りました。……ひなた先輩」
大きな目を輝かせて近寄ってきたこの人は、例の『桃色桃瀬』を授けた2つ上の先輩、宮原ひなただ。ふわふわの茶髪を弾ませぱっちりお目めでアイドルばりに可愛いが、れっきとした男性だ。
「待ってたよっ。1回冷蔵庫で冷やす? それかもう食べちゃう……って、あれ」
一見して身軽な律を不審に思ったようで、つかつかと歩み寄り紙袋の中まで覗いたひなたは、途端に不機嫌になった。こんな時に限って、フロアに客もいない。
「……ねえ、だいだいもちは? 買ってくるって言ったよねぇ。まさか忘れたの?」
「ええと、買いに行ったんですけど、売り切れてて」
「嘘っ、信じらんない。まだ3時じゃん」
「正確には最後の1つはあったんですけど、財布探してる間に後から来た人にとられたっていうか」
「何それ」
律は、だいだいもちを奪われた経緯を簡単に説明した。せっかく期間限定販売の情報をくれたひなたに、不甲斐ない気持ちで一杯だ。
遭遇した残念な男前のことを話すと、腹立たしさも蘇る。先程の理不尽さを思い出して憤慨する律に、ひなたは何故か一転うっとりとした表情になった。
「性格悪そうなイケメンに最後の1つ奪われたの? しかも入口でぶつかって、もう一度会ったんだ。それってさぁ、運命の出会いってやつじゃない? うわぁ、ロマンチック!」
「え?」
「そこから恋が始まっちゃったりして!」
「いや、ないですから。大体、どこの誰かも知らないし」
「それなのに一目惚れしちゃったんだぁ」
「だから、してません」
悪印象しか話してないぞ?
今の話のどこにロマンチックで恋が始まる要素があるのか、全く分からない。
だいだいもちから気が逸れてくれたのはありがたいが、ひなたは不思議系の天然だ。いつも斜め上方向からの思い込みが激しいのだった。
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