りっちゃんと愉快な仲間たち

3/5
前へ
/112ページ
次へ
 そう。律も、恋愛対象は男性だ。  閉鎖的な田舎の高校で自分の性癖に悩んでいた頃、律は最初で最後の運命の恋をした。  同級生のその彼と将来を誓い合い、先々のことも考えて共に桜木市の大学に進学し、2人で住居も構えた。卒業したら、この市のパートナーシップ制度を申請しようと話していた。それなのに──彼は大学に入って1年も経たずに別れを告げた。 『悪い、何か冷めた。もう無理だから』  一方的な別れを、簡単に受け入れてなどいない。全身全霊で抗ったが、とりつく島もなかったのだ。別れを決めた彼は、別人のように冷たかった。 『あのさ、重いんだよ。息が詰まる』  初めての恋に、距離感が掴めなかったことは否めない。桜木市に来た頃は知り合いも彼だけで、頼りすぎていたのかもしれない。  それでも本当に好きだったのだ。別れを切り出す前に、ひと言相談してほしかった。態度を改めると必死に縋ったが彼は考えを変えず、あっさりと家を出て行った。  後になって、その頃にはもう新しい恋人がいたことを知った。律に冷めて別の人に心変わりをしたのか、別の人に心変わりをしたから律に冷めたのか、分からない。……もう、どっちでもいい。  2人で過ごした幸せだった日々を思い返しながら、律は心の底から思った。  ──人の心は、変わるのだと。  永遠の愛など、ないのだと。  あんな絶望を味わうのは二度とごめんだった。  恋愛などしなくても、人生は豊かにできる。 「僕の恋人は仕事ですから」  元々、桜木市は来たかった街だ。何たって、桜木城がある!  彼と別れて一時は廃人のようになった律だが、残りの大学生活では心機一転、桜木城のボランティアガイドをしていた。  何を隠そう、律は生粋の城好き城マニアなのだ。日本城郭検定の2級は、中学2年で取得している。  桜木城の城主は、領民思いの非常に優れた人物だった。自身の立場を顧みずに民のために奮闘した貴重なエピソードが数々残っている。自身で調べ上げた資料を基に、それらを分かりやすく説明するガイドぶりはとても人気で、ボランティアながら指名も入る程だった。  これまで彼にだけ向けていた情熱が、学業にこそ向かわなかったものの、趣味である城探求に向いた結果だった。
/112ページ

最初のコメントを投稿しよう!

106人が本棚に入れています
本棚に追加