りっちゃんと愉快な仲間たち

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 来週、律が担当する社員旅行の打ち合わせが予定されている。律も好きなだいだいもち発祥の和菓子屋、月島屋の社員旅行だ。  宮原は月島家の次男と同じ小学校で仲が良かったらしく、その縁で社員旅行は毎年サクラトラベルが担当させてもらっている。  今回のだいだいもち期間限定発売の情報も、その次男から聞いたらしい。  いつもは宮原が添乗同行する社員旅行に、今年は律が添乗する予定だ。 「りっちゃんの添乗員デビューだもんね、応援してる!」  そう、律はこの旅行が添乗員初仕事なのだ。馴染みの月島屋を律に回してくれたのは、宮原の配慮だろう。これまでアシスタントで添乗に同行させてもらったことはあるが、今回は1人で添乗する。    月島屋の社員旅行の担当者はその幼なじみの次男で、律は会ったことはないが、ひなたは顔見知りらしい。 「大ちゃんはすっごく優しいから大丈夫だよ! 何ていうかさ、見た目ワンちゃんみたいに可愛いかんじ? 眼鏡かけてるから、賢くて可愛いワンコ」 「そうなんだ」 「可愛いんだけど、大ちゃんはやっぱり硬派なイメージだよね! でも話すととっても優しいんだよ」  可愛くて、硬派なワンコ? ひなたの例えはよく分からない。  月島屋の次男は、大介というらしい。  律も人見知りするタイプではないが、ひなたがいると安心だ。何だかんだと、ひなたにはいつも助けられている。  国内旅程管理の試験を受けた時も、親身なアドバイスを受けた。  ひなた自身3回も落ちたというその資格試験に、1回で合格できたのは奇跡だと思う。……あとで受験者の大半は受かる試験だと聞いて、何故ひなたが3回も落ちたのか不思議に思ったが。  ひなたのアドバイスで、全国の新幹線の駅名を必死で覚えたのが勝因だったのかもしれない。……律が受けた試験にその問題は出なかったが。  全国観光地のお土産品を覚えたのも良かったのだろう。……これはかすった問題が1問だけ出た! わざわざ現物まで取り寄せたのは、単にひなたが食べたかったからに違いない。  しかし、どれもこれも今後の仕事に役立つ筈だ。ひなたには感謝しているし、とても頼りにしている。 「僕も一緒に添乗できたらいいんだけど……」 「何言ってるんだ、ひなた。甘やかしたらだめだよ」  そう言う宮原は、絶対ひなたを1人で添乗に出さない。ひなたが行きたがる添乗は必ず宮原が同行するので、その間2人は不在になる。ひなたも4回目で合格した旅程管理を持っているのに、過保護がすぎるし非効率極まりない。  ちなみに、ひなたが海外旅行に興味がないという理由で、サクラトラベルは国内旅行しか扱っていない。 「……うん。僕、心を鬼にするよ」 「えらいな、ひなた」  宮原は、ひなたを溺愛している。  恋愛はしないと決めているのに、この2人を見ていると、ちょっぴり羨ましくなる律だった。
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