秋の行楽シーズン

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秋の行楽シーズン

          ◆  10月に入り、朝夕は肌寒い日も増えてきた。晴れた日の日中は、カラリとした陽気で過ごしやすい。  スポーツ観戦に芸術鑑賞。美しい紅葉に、美味しい秋の味覚。そしてもちろん、秋のお城も魅力たっぷりだ。 「りっちゃん考案の『秋のお城に魅せられて』シリーズ、好評だね!」 「ありがとうございます。ひなた先輩の『カップル限定ミステリーツアー』も人気ですよ」 「ふふふ。さくちゃんといっぱい下見に行ったからねー」  ひなた考案の『カップル限定ミステリーツアー』は、代表でパートナーである宮原朔太郎と『視察』と称しては仕事中に堂々と遊びに行った結果の産物である。いいんだけど。 「『ブルータス号で行く! 豪華バス温泉旅行』の企画も順調に作成中だよ」  月島屋社員旅行の帰り、本店前で解散したあと会社に戻ろうとした律は、『ついでだから』とサクラトラベルまで観光バスに乗せてもらった。  ネイビー色の丸みを帯びた貫禄のある車体がサクラトラベルの前に停車すると、ガラス越しに見ていたひなたが目を輝かせて飛び出してきた。 『すごい! こんなゴージャスな観光バス、初めて見た!』  続いて出てきた代表の宮原は、お土産の紙袋を両手に提げて降りてきた律に『お前は遊びに行って来たのか?』と一瞬眉をひそめたものの、『これは全部ひなた先輩に』と言うと一転笑顔になっていた。  今回のバスはミヤビ交通でも最高グレードの観光バス、その名もブルータス号というらしい。  はしゃぐひなたにバスを褒められた運転手の中村は喜んで車内を案内し、宮原にもここぞとばかりにブルータス号を売り込んだ。  結果、このバス限定のツアー企画を組むに至る。ほくほく顔で営業所へ戻って行く中村と早川を見送った宮原は、このバス企画を全面的にひなたに一任した。  それは別にいいのだが……おそらくこのツアーの添乗には、ひなたが行きたがる。となると、宮原が同行する。2人が抜ける職場を想像し、できれば繁忙期は避けてもらいたいと密かに思う律だった。  なにはともあれ、サクラトラベルは秋の行楽シーズン真っ只中だ!
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