婚約者? 登場

1/6
76人が本棚に入れています
本棚に追加
/112ページ

婚約者? 登場

          ◇ 「はーい! いらっしゃい!」  玄関を開けて出てきたのは、ロングヘアの若い女の人だった。 「あら?」  びっくりして固まっている律に、不思議そうに首を傾げている。 「ええと、宮原さんのお友達かしら? お1人?」  そして、律の後ろを伺うようにきょろきょろと覗いた。 「おい、勝手に出ないでくれ」  奥から大介が来て、女性を脇に追いやった。 「桃瀬くん、すまない。ほら、上がって」 「あ、……はい……」  固まっていた律は、ぎこちなく会釈すると、玄関に入った。  大介の隣で、女性がにこにこ笑っている。  きれいな薄いピンク色のワンピースが似合う、可愛らしい美人だ。  え、誰だろう。  大介は1人暮らしだと思っていたので、誰かいるなんて、ましてや女性がいるなんて──思ってもいなかった。 「………」  そろりと靴を脱ぐ律に、女性がすかさずスリッパを差し出す。 「宮原さんも来るのよね?」 「あ、はい。ちょっと買い物をしてくるので、あとから……」  胸が、嫌な予感にざわついた。 「台風で大変だったでしょう。どうぞ上がってください」  ちらりと見た大介は、どこか困惑したような表情で、同意するように頷いた。 「……お邪魔します……」  女性に促されるままリビングに通されると、テーブルの上にはチーズフォンデュの用意が既にされてあった。  まだ鍋に火は入っていないが、きれいに切られた具材が皿の上に並んで、取り皿が積んである。この女性が準備したのだろうか。空のグラスが席ごとに伏せてあるのを見て、律は持って来たワインを思い出した。 「あ、あの、これ……」  どこか困ったような表情の大介に、律が紙袋を差し出すと、女性が横からさっと受け取った。中をちらりと覗き見る。 「あら、すみません! ありがとうございます」 「おいっ、」  大介が慌てて女性から紙袋を引ったくった。 「美味しそうなワインだわ、チーズフォンデュに合いそうね」 「君はもう、座っててくれないか」 「はいはい、ふふ」  6人掛けのテーブル席の1つに、女性が浅く腰掛けて律に笑顔を向けた。  ……何だろう、すごく居心地が悪い。  まるで彼女か奥さんのように振る舞う女性が、そこにいるだけで怖い。……大介は婚約を解消したのではなかったのだろうか。 「すまないな、彼女はすぐに迎えが来るから。ワイン、ありがとう」 「あ、いえ」  迎えが来るのか。  良かった、一緒に食事をするのではなさそうだ。  気持ちの悪さは取れないものの、律は少しだけほっとした。 「あら、家に連絡したの?」 「当然だろう」 「しなくていいのに! 台風が過ぎるまで、ここにいさせてくれればいいじゃない」 「そんな訳にいかないだろう」 「そんな気遣う間柄じゃないでしょう? ひと晩くらい泊めてくれたっていいじゃない。だって──」  その時、インターフォンが鳴った。
/112ページ

最初のコメントを投稿しよう!