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婚約者? 登場
◇
「はーい! いらっしゃい!」
玄関を開けて出てきたのは、ロングヘアの若い女の人だった。
「あら?」
びっくりして固まっている律に、不思議そうに首を傾げている。
「ええと、宮原さんのお友達かしら? お1人?」
そして、律の後ろを伺うようにきょろきょろと覗いた。
「おい、勝手に出ないでくれ」
奥から大介が来て、女性を脇に追いやった。
「桃瀬くん、すまない。ほら、上がって」
「あ、……はい……」
固まっていた律は、ぎこちなく会釈すると、玄関に入った。
大介の隣で、女性がにこにこ笑っている。
きれいな薄いピンク色のワンピースが似合う、可愛らしい美人だ。
え、誰だろう。
大介は1人暮らしだと思っていたので、誰かいるなんて、ましてや女性がいるなんて──思ってもいなかった。
「………」
そろりと靴を脱ぐ律に、女性がすかさずスリッパを差し出す。
「宮原さんも来るのよね?」
「あ、はい。ちょっと買い物をしてくるので、あとから……」
胸が、嫌な予感にざわついた。
「台風で大変だったでしょう。どうぞ上がってください」
ちらりと見た大介は、どこか困惑したような表情で、同意するように頷いた。
「……お邪魔します……」
女性に促されるままリビングに通されると、テーブルの上にはチーズフォンデュの用意が既にされてあった。
まだ鍋に火は入っていないが、きれいに切られた具材が皿の上に並んで、取り皿が積んである。この女性が準備したのだろうか。空のグラスが席ごとに伏せてあるのを見て、律は持って来たワインを思い出した。
「あ、あの、これ……」
どこか困ったような表情の大介に、律が紙袋を差し出すと、女性が横からさっと受け取った。中をちらりと覗き見る。
「あら、すみません! ありがとうございます」
「おいっ、」
大介が慌てて女性から紙袋を引ったくった。
「美味しそうなワインだわ、チーズフォンデュに合いそうね」
「君はもう、座っててくれないか」
「はいはい、ふふ」
6人掛けのテーブル席の1つに、女性が浅く腰掛けて律に笑顔を向けた。
……何だろう、すごく居心地が悪い。
まるで彼女か奥さんのように振る舞う女性が、そこにいるだけで怖い。……大介は婚約を解消したのではなかったのだろうか。
「すまないな、彼女はすぐに迎えが来るから。ワイン、ありがとう」
「あ、いえ」
迎えが来るのか。
良かった、一緒に食事をするのではなさそうだ。
気持ちの悪さは取れないものの、律は少しだけほっとした。
「あら、家に連絡したの?」
「当然だろう」
「しなくていいのに! 台風が過ぎるまで、ここにいさせてくれればいいじゃない」
「そんな訳にいかないだろう」
「そんな気遣う間柄じゃないでしょう? ひと晩くらい泊めてくれたっていいじゃない。だって──」
その時、インターフォンが鳴った。
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