婚約者? 登場

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「ああ、(さく)だな」 「あら、宮原さん?」  女性が、嬉しそうに立ち上がった。  インターフォンに向かう大介より先に、パッと飛びついて応答する。 「こんにちは! お待ちしてました、どうぞ」 「おいっ」  さっさと解錠する女性に、大介が顔をしかめる。先程律が来た時も、おそらく似たような状況だったのだろう。  程なくして部屋のインターフォンが鳴ると、我先にと玄関に向かう女性に、律は肩を竦めた。  話し声がして、やがて女性と共にリビングに入ってきた宮原は、律をちろりと流し見た。分かってるな? の合図だ。  律が小さく頷くと、その後ろからひなたが白いケーキの箱を大事そうに抱えて入って来た。あ、今回のサプライズはケーキだ。 「……大ちゃん、これ、冷蔵庫に」  宮原の後ろに隠れきれていないひなたが、こっそりと大介に耳打ちする。  うん、見えてない、見えてない。ひなた先輩、ありがとう。  すると、女性がぱっと手を差し出した。 「あら、ケーキね! ありがとう!」 「っ、」  ひなたが、びくりと身を引いた。 「ここのパティスリー、美味しいのよね! さすが宮原さん」  ひなたの顔が、みるみる歪む。  大介は、さっとケーキの箱を冷蔵庫にしまった。 「……大ちゃん。この人誰?」  ひなたが、珍しく低い声を出す。 「あ、すまないな。この人は、」 「里佳子(りかこ)です! 初めまして。大介の婚約者です」 「っ、」  ──ああ、やっぱり。  律は、手をぎゅっと握った。先程からじくじくと痛んでいた胸が、ぐさりととどめを刺されたようだった。 「え?」  ひなたは驚いて大介を見る。  大介は、ため息をついた。 「もうとっくに婚約者じゃないだろう、何を言ってるんだ」  あれ? やっぱり婚約は解消しているのだろうか。 「だから、謝ってるじゃない。あのことはもういいのよ。ねぇ宮原さん、こちらは?」 「僕のパートナーの、ひなただよ」 「パートナー……そうね、そうだったわね。よろしくお願いします」  無意識だろう、里佳子の体がほんの少し、ひなたから引いた。  こういう反応には、律も覚えがある。  月島屋アルバイトのさおりのように、理解のある人ばかりではない。
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