婚約者? 登場

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「それで里佳子さん、今日はどうしたの?」  宮原は彼女を知っているようで、親しげに話しかけた。 「台風の中、何かあった?」 「そうなの。電車が止まっちゃって、タクシーも捕まらなくて。大介に迎えに来てもらったのよ」 「へえ、それは大変だったね」 「そうなのよ。ね、大介」 「……こんな嵐の中困ってるっていうから、仕方ないだろ……」  大介がため息をつく。 「もちろんだよ、可哀相に。雨に濡れなかったか? 大丈夫?」  宮原が真っ黒い笑みを浮かべる。  彼は、ひなたに害をなす者が一番嫌いだ。 「ほら、こっちに」 「あら、ありがとう」  促して、テーブルの角の席に座らせる。 「ひなた」  そして彼女から一番遠い角に、ひなたを座らせた。 「……すぐに迎えが来るから」  言い訳のように呟く大介に、宮原が黒く笑う。 「え? ゆっくりしてもらえばいいじゃないか」 「そうよね! ねぇ、こちらの方は宮原さんのお友達? お会いするの初めてだわ」  彼女の視線が、律に向く。まるで、大介の友達なら皆知っていると言いたげに。 「僕の店のスタッフだよ」 「あ、ホストクラブの?」 「いや、旅行会社の方で、桃瀬くん」  律は紹介されて、小さく会釈した。 『宮原の店』と言われてまず先にホストクラブが浮かぶあたり、彼女の宮原に対する印象が伺える気がした。  それよりも……さっきから、宮原が自身を『僕』呼びしている。宮原が自身を『僕』呼びするのは怒っている時だと、ひなたに聞いたことがある。 「立ってるのも何だから、ほら桃瀬くんも座って。食事にはまだ早いから、お茶でも飲もう」  宮原の提案に、里佳子はすぐに賛同した。 「そうね! そうしましょう。大介、冷たいお茶はある?」  言うなり立ち上がると、大介に歩み寄る。  彼女はさっきからずっと、落ち着きがない。座ったかと思うと、すぐに立ち上がる。 「……あるよ」  ため息と共にキッチンへ向かう大介に、里佳子がついて行った。  ひなたの隣に宮原が座るのを見て、律はその隣にそっと腰を降ろす。律を振り返る宮原は笑顔だ。何だろう、宮原が怖い。  すぐに人数分のお茶を持って来て配った里佳子は、大介を伴って向かい側に並んで座る。里佳子が真ん中に座ったので、大介は律の前に来た。
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