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「……言っておくが」
お茶をひと口飲んだ大介は、律を真っ直ぐに見た。
「婚約はとっくに解消しているんだ、誤解しないでほしい。今日はたまたま、」
「だから、そのことはもういいって言ってるじゃない」
横から里佳子が口を挟む。
「良くないだろう! 慰謝料だって支払ってるし、君も納得した話だ」
少し大きな声を出した大介に、里佳子がびくりと体を揺らした。
「……慰謝料なら、きちんとお返しします。私が間違ってたと思う、ごめんなさい」
「やめてくれ、非はこちらにあるんだ。……君は別の人と家庭を築いた方がいい」
「だから、もういいのよ。子供なんていなくたっていいし、どうしても欲しくなったら養子をもらえばいいじゃない」
「子供?」
宮原が、怪訝そうな顔をした。
「あ……いえ。とにかく、私はもう気にしてないの。そんなことより、大介といることの方が大切だって分かったのよ」
「ご両親は知らないんだろう? さっき電話したら、お父さんが驚いてたよ」
「両親にはこれから話すわ! だって、これは2人の問題なんだから」
「……あのさ、結婚は2人だけの問題じゃないよ」
ひなたが、控えめに口を開く。
「僕らも籍を入れた時、色々あったから身にしみて思ったけど」
「それは、その、ちょっと普通とは違ったからよね? 私たちは、」
「……普通とは違うって……」
ひなたの声が震えると、テーブルの下で宮原がぎゅっとひなたの手を握った。
「あ、いえ、変な意味じゃなくて、その」
里佳子が、おろおろと宮原を伺う。
「そうだね、里佳子さんから見たら、僕たちは普通じゃないかもしれない。でも」
笑顔を消した宮原が、口端の片方だけを歪に持ち上げた。
「でも、正式に破談になってるのにこんな風に訪れることの方が、よっぽど普通じゃないんじゃないかな」
宮原が女性相手に、こんな風に辛辣な物言いをするのは珍しい。宮原は基本、女性には紳士的だ。
「っ、……ごめんなさい。ほんとにそんなつもりで言ったんじゃないの」
里佳子が、宮原とひなたに頭を下げた。
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