婚約者? 登場

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「それに、今日はいきなりで悪かったと思ってるわ、ごめんなさい。でも本当に困ってたのよ、それで大介のことを思い出して」  里佳子はここから近い駅で、足止めを食らっていたそうだ。……たまたまか、狙って来たのかは知らないが。 「それに……こんなことでもないと、大介、会ってくれないじゃない」  あ、後者だ。狙って、来たんだ。 「どうしても話を聞いてもらいたくて……宮原さんたちが来るって、知らなかったから」  どうやら里佳子はこれまで何度か連絡を試みるも、大介から相手にされなかったようだ。  話しながらみるみる元気が無くなっていく彼女に、律は複雑な気持ちになった。好きだった相手に顧みられなくなる気持ちは、痛い程、分かる。 「悪いが、会う必要性が分からない。もう済んだ話だし、蒸し返すつもりもない」  大介がはっきりと言い放つと、彼女の体がぴくりと揺れた。と同時に、律の体もぴくりと揺れる。 『悪いけど、もう会いたくない』  昔、彼に言われた別れの言葉と大介の言葉が、瞬時に重なった気がした。 「……本当に、後悔してるの。別れてみて、私には大介が必要なんだって、よく分かったの。お願い、もう一度私とのことを考えてほしい」  里佳子が、大介に頭を下げる。  昔の自分を見ているようで、律は胸がズキズキと痛んだ。  大介は小さく息を吐いた。 「……君は、子供好きだったよね。結婚したら子供は2人は欲しいって、話してただろ」 「っ、だから、それは……」  里佳子が周りを気にする素振りで、言い淀む。 「──いいよ。俺は、無精子症なんだ」  里佳子が、パッと顔を向けた。 「……は?」  宮原が、驚く。 「朔にも言ってなかったな。結婚前のブライダルチェックで分かったんだよ」 「ブライダルチェック?」  結婚前に疾患の有無を調べるブライダルチェックは、主に妊娠や出産に関する検査なので女性が受けることが多いが、最近は男性も受診する人が増えているらしい。  その検査で、大介は自身の無精子症を初めて知った。セカンドオピニオンも受けたが、結果は同じだった。 「俺は、子供が出来ないんだ」 「大ちゃん……」  ひなたの顔が歪む。  前に聞いた、大介側が有責の慰謝料とは、このことだったのか。
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