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沙耶香は陽一に、律子の前祝いに二人で一泊すると嘘を伝った。
「楽しそうだね。ゆっくりしておいで」
露ほども疑わない陽一の笑顔が心苦しかった。
いつものシティホテルに着いた沙耶香は、スマホを開いて部屋番号をたしかめた。この日は、いつもより上のフロアらしい。
初めてのお泊まりに奮発したのかしらと、エレベーターに乗る。
エレベーターのガラスの向こうに、新宿の街が小さくなっていく。
耳がツンとして生唾をごくんと飲んだとき、チンとエレベーターが停止した。
乳白色の廊下に並ぶ客室の間隔は、下のフロアよりもだいぶ広い。
フロアの化粧室でメイクを直した沙耶香は、客室のインターホンのボタンに指をかけた。
一瞬の迷いを振り切ってボタンを押す。
ほどなくして内側に扉が開くと、圭吾が顔を覗かせた。
「さあ入って」
圭吾の後について足を進める。
内扉を開けた先のリビングに、沙耶香はぎょっとした。
リビングのソファに何人もの男女が座っている。
「え……?」
「ゴメン驚かせて。紹介するよ」
沙耶香は圭吾の上着の袖を引っ張った。
「圭吾さんこれって……?」
「だからサプライズで、他のサロンメンバーとも交流してもらおうと思って」
「交流って……」
「沙耶香も僕だけじゃなくって、気に入った相手がいたらセックスしなよ。ゲストルームもいくつもあるし」
沙耶香は圭吾から離れて後ずさった。顔を何度も左右にふる。
圭吾は面食らった顔だ。
「だって沙耶香、セックス好きだよね」
頬がカッと熱くなる。
踵を返し逃げるように部屋を出た。
「沙耶香待って!」
新宿の地下道を一心不乱に走った。
女子トイレの個室に駆け込む。
恋人気取りでいた自分はなんてバカなんだろう。情けなくて涙が溢れた。
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