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数年前の中学の同窓会ぶりに、都心のシティホテルを訪れた。
フロアの廊下のえんじ色の絨毯に沿って、宿泊室の扉が静かに並んでいる。
沙耶香はフロアの化粧室に足を向けた。
大きな化粧台の鏡に自分の姿を写す。ノースリーブの黒いワンピースに薄いグレーのカーディガンを合わせ、髪はバス通り沿いの店でカットした。メイクは普段より濃い。
紅い口紅を塗りなおし、もう一度鏡を見ると、意を決して化粧室の扉を押した。
沙耶香はリビングテーブルのソファに、朝井圭吾から少し距離を置いて浅く腰掛けた。
「とりあえず乾杯しましょう」
朝井圭吾にうながされ、スパークリングワインのグラスをカチンと交わす。
思わず目線をはずし、部屋の奥のはめ殺し窓に目をやった。
新宿の高層ビルが陽光を照り返している。
ふと、陽一の顔が過ぎった。
「先週、沙耶香さんに初めて会ったとき、眼の奥にあの人と同じ寂しさを感じたんです。だから僕を選んでくれて嬉しかった……」
朝井圭吾が身体を寄せてくる。
嫌な感じはしなかった。
沙耶香は圭吾の目の奥に、自分と似た悲しいものを感じていた。
寂しさを共有できたような安心感。
朝井圭吾の手のひらが沙耶香の頬に触れる。
ごく自然に沙耶香は、圭吾に唇を寄せた。
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