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 沙耶香は餃子の(あん)をこねながら、圭吾に思いを馳せていた。  餃子は陽一の大好物だ。  陽一への後ろめたさから餃子にした。  しかし、頭は圭吾のことを考えている。  ひさしぶりのほかの(ひと)の体温と匂い。初めは緊張していたが、優しくリードしてくれる圭吾に身を委ねると、恥ずかしいほどに乱れた。  今もまだ、身体の芯が熱い。  頭では申し訳ないと思うも心は満ちたりている。心と身体が二つにちぎれたようだった。    帰宅した陽一はテーブルの餃子に目を輝かせた。 「廊下で餃子の匂いがして、もしやって思ったらウチだった!」 「いっただっきまーす」  大好物を前にした子どものように餃子を頬張る。  陽一は少し口を動かすと、「ん?」と箸を置いた。  沙耶香も半分かじった餃子を小皿に戻し、餡だけを箸でつまみ口に入れた。 「あ……」  辛い。しょうゆと料理酒を入れ忘れていた。  甘味がなく、今まで食べたどの餃子よりもまずかった。 「ごめん……わたし……」  沙耶香が下瞼に涙を浮かべると、陽一が驚いたように椅子を引き駆け寄る。 「泣かなくても……」  陽一は小皿の醤油にラー油を足して、箸で餃子をつまむと小皿にたっぷりと浸して口に放り込んだ。 「ほら、ぜんぜん食べれる」  陽一は味のない餃子と白飯を頬張り、沙耶香の分まで平らげた。  暗い寝室で沙耶香は、隣で寝息を立てる陽一の寝顔を見つめていた。  こんなにやさしい人を裏切ってしまった。  うとうとと瞼を閉じると、また圭吾の顔が浮かんできた。
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