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…と、考えながら深く考えずにふんふんと適当に頷きながらその台詞を聞き流していたら。次に出てきた言葉が完全にわたしに向けられてるのに気づき、慌てて意識をそっちにチューニングする。
「だからまあ、今日は俺があっちで所長がこっちじゃなくて申し訳ないなとは思うけどさ。ここぞという場面はさすがにあの人じゃないとってのはあるからね。それにさ、所長も別に個人的な感情から向こうの仕事を優先したわけじゃないと思うよ?あの彼女と純架ちゃんを秤にかけたとかは絶対にあり得ないし。そう心配しなくていいんじゃないの。ただのビジネスだよ、仕事」
誰が。彼が綺麗なお姉さんと二人きりだからって内心で密かにずっとやきもきしてるとか?想像力過多なのもいい加減にしてくれ。
そこに含まれてたニュアンスは全スルーして、何も気がつきませんでした。って顔つきで軽くあしらって済ませた。
「うーん…。わたしは別に。高橋くんとでも神崎さんとでも、組み合わせは気にしないよ?誰とでも仕事は仕事だし。てか、彼の方こそ。今回こそは猫担当したかったんじゃないかな。次に猫探しの依頼来たら今度は自分が行く!って前から言ってたのにね」
木々の間に奥まった空間があって、木製のテーブルと椅子が造りつけられてる。周りに平らな地べたと縁石で仕切られた花壇もあって、ここなら人が少なそうだし静かだから猫が居付きそうだなぁ。と思ってひょいと覗くと、そこにはしっかりと『野良猫に餌をやらないでください』の看板が。
ある意味、猫が落ち着けそうな場所だって思いつきは当たらずとも遠からずってことか。同じようなことを考える人がここで餌を与えてて、役所に通報されたんだろうな。
わたしが看板を指し示すと神崎さんもふむふむ、と前に進んできて頷いた。
「これで餌やりが止まったのかもだけど。もしかして他人の注意をまるで聞かないタイプの人だとしたら、今でも変わらず餌を持って通ってきてる可能性もあるな…」
そこを捕まえて尋ねてみるか。その人が持ってきた餌目当てにわっと寄ってくる猫もいるだろうし、一石二鳥だよね。と腕を組んで思案しつつ呟く神崎さん。
いやぁ、自分宛てに看板建てられててもまるで気にせず平然と餌やりを続ける人物とは。あんまり話したくないかな…。ちょっと怖いかも。話通じなさそうな予感…。
誰か餌やりに来るとしたら朝と夕方かな。もっと遅い時間にもう一度確認に来ようか。と言い合いながらわたしたちはその場を後にした。
「…この公園、よく猫がごろごろしてるってネットで書き込まれてたほどではないのかな。こうやって隅から隅まで歩いても特に痕跡感じられないですよね。やっぱり真偽不明で外れも多いってことかなぁ、ネットの拾い物の情報は」
最近ネットで検索することを覚えたわたしがそうため息をつくと、隣を歩く神崎さんは親切顔で横から励ました。
「いや、猫にも活動時間帯ってもんがあるんじゃない?別に調べた結果が全部偽とは限らないと思うよ。ここの公園、住宅街の中にあって通り抜けにはちょうどいいから。昼間は突っ切って歩く人が絶えなくて猫には落ち着かないんじゃないのかな。明るい時間帯は、みんな散り散りで見えない場所にひっそりと収まってて。夜になったらぞろぞろ出てきて集会始めるとか。そういう感じなんじゃないの」
だから、たまたま今は時間が合わないだけで。ここに猫が集まること自体は本当のことかもしれないよ、近隣に住んでそうな人を見つけたら話を聞いてみよう。と年長者らしい余裕を見せてわたしを元気づけ、公園を出るよう促した。
「どのみち、猫じゃないまともに口利ける『あじ』の目撃者を探さないといけないし。捕獲器をセッティングするにしても闇雲に猫が多いってだけの場所に置いても関係ない子が捕まるだけだからな…。ていうか、これってさぁ。別猫がかかったらどうするべきなんだろ。保健所に連れてくのは論外だし。もういっそ、事務所で飼う?純架ちゃん来て人員増えたから。誰かしら猫の面倒見る人、確保できるだろうし。これまでと違って」
彼がぽんと口にした『あじ』というのが今回の捜索対象。結構印象的な全身濃いめの錆色の猫だ。写真を見てもインパクト強いし、目撃したら比較的記憶に残りやすそうだから。できるだけ早めに見つかるといいんだけど。
「わたしもそう思って、いっそ事務所で猫飼ったら?って訊いてみたんだ。猫探しいいな〜俺も猫の方行きたかった、何でいつも俺の用事があるときばっかり迷い猫探しの依頼来るんだ!ってごねてたから、今朝も」
うだうだとしょうもない文句を言ってる高橋くんが久々にガキっぽく見えて、ちょっと溜飲を下げた記憶。いや、こっちに来てからもうずっと頼れる大人のお兄さん過ぎて、しょうがない人だなあ。と呆れちゃうような言動は集落で以来見てない気がしたから。こういうの懐かしい、と内心でほっこりしてしまった。彼はそんなわたしの胸のうちは知らず思いきりぶすくれてたけど。
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