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純平は自然とその傍に歩み寄り、トッコを抱きしめる里緒の肩を、そっと抱き寄せた。航己は青山の肩を「ぽん」と叩き、そんな純平たちの姿を、眩しそうに眺めていた。
「見て……」
やがて里緒が顔を上げ、海面の彼方を指差した。トッコがその言葉に合わせて振り返り、純平も、航己も青山も、里緒の指差した水平線の向こうに視線を送った。
彼らが目にしたのは、純平がずっと愛してやまなかった、故郷の青い海の果てに。今まさに、夕日が沈もうとしている光景だった。
「綺麗だね……」
「ああ……」
それ以上の言葉は、いらなかった。澄んだ青い海面を、夕日がほのかに赤く染め始めている。純平は、この光景を守りたいと思って、会社に企画書を提出した。それが、自分の手の届かない一大プロジェクトにまで発展し、あげくこんな事態が巻き起こってしまった。
それでも、目の前いっぱいに広がる「青の色」を見て。純平は、改めて決意を固めていた。例え何があっても、この景色を守る。これは、自分だけのものじゃないんだ。里緒や航己、そしてトッコちゃんを始め、この町に住む人々みんなが、大事に思い。心から、愛しているものなんだ……!
純平は、肩を抱いていた里緒が、その頭を自分の胸にそっと寄せて来たのを感じ取り。もう一度、里緒のぬくもりを確かめるように、「ぎゅっ」と抱き寄せた。そして純平たちは、そのまま何も言わず。ただじっと、果てしなく広がる青い海を、見つめ続けていた。
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