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32
「うわああああああっ?!」
すでに全身を岩の壁沿いに「ぺたり」と張り付けているような体勢の航己は、見上げた壁の上から「がううううううっ!」と豹の顔が飛び出して来たのを見て。あらぬ叫び声を上げるのと同時に、驚きのあまり、壁の縁にかけていた両手を「ぱっ」と離してしまった。
「おい、馬鹿!」
「危ないっ!!」
純平と里緒の悲痛な声が響く中、航己の体は自身の重みも相まって、「ずるっ!」と壁沿いに滑り落ちた。純平も里緒も、そして青山も慌てて、航己が落ちて来るであろう「壁の下」に集結し。なんとかその体を受け止めようと、身構えた。
どすんっ……!!
身構えていたとはいえ、数メートル上から落下してきた体格のいい航己の重みは、受け止める方にもかなりの衝撃だった。純平も里緒も、青山もたまらず、その場に尻もちをつき。そして航己を受け止めようとしていただけに、上手く受け身が取れなかったため、ゴツゴツとした岩場の地面に腰や足などを強く打ち付けることになった。
「いたたたた……」
「うーーん、あいたたた」
純平たちはそれぞれに顔をしかめながら、体のどこかに怪我をしてないかと確認し。同時に、受け止めたはずの航己が無事かどうかも確認した。
「いててて……な、なんとか大丈夫そうだな……」
航己はそう言って、腰の辺りを片手で押さえ、もう片方の手で、すりむいたらしい頬の辺りをさすっていた。手の甲などには擦り傷があり、血が滲んでもいるようだが、5メートルを超える高さから落ちたことを思えば、「無事に済んだ」と言えるかもしれない。
しかし当然のことながら、これで安心できるわけではなかった。目の前の「標的」を失くした豹は、岩の壁の上で、少し後ずさりすると。たーーんっ! ……と、勢いよくジャンプした。
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