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岩の壁の下で、純平たちがようやく体を起こそうとしているそばから。壁の上からジャンプした豹は、しなやかな体の動きで「くるり」と身を翻すと、「すたっ!」と地面の岩場に着地した。そう、豹は高いところから落ちても、体を回転させて上手く着地出来る、「ネコ科」の動物なのだ。
体の痛みに顔をしかめていた純平たちは、今まさに「身の危険」が、間近に迫ったことを実感した。豹はジャンプする時に反動をつけたためか、純平たちがいる「壁の真下」よりは数メートル先に着地したが、動きの素早い豹にしてみれば、それは一瞬のうちに移動できる距離だろう。
「航己! スタンガンは?!」
純平は、まだ腰を押さえている航己に叫んだ。「あ、ああ!」航己は慌てて、壁にぶら下がる際に腰のベルトに挟んでいたスタンガンを引き抜き、わずか数メートル先にいる豹に向かって、その先を突きつけた。
ばちっ、ばちばちばちっ……!
航己がスタンガンの持ち手のところにあるスイッチを押し、先端から青白い火花が飛び散った。それを見た豹も、「ぐるるるる……」と唸り声をあげながらも、着地した地点からそれ以上近付いてはこなくなった。
だが豹の方も、スタンガンを突きつけている者が、これまでずっと自分を「虐待」していた人物ではないことは認識していた。その憎むべき相手は、ついさっき自分の爪と牙で「亡き者」にしたのだから。
そしていまスタンガンを持っている男の目には、その虐待していた人物とは違い、明らかに「恐怖」の色が宿っていることも、豹は感づいていた。それはやはり、まだ小さい頃から大黒に「飼育」されていたとはいえ、逞しき体の中に遺伝子レベルで宿る、「野生」のなせる業なのだろう。
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