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もちろん今いる場所が海水で満たされれば、純平たちも溺れる危険に見舞われる。だが、抵抗しようのない「猛獣」に襲われるよりは、「まだマシ」なんじゃないか。豹は海水が満ちて来れば、その身軽さを利用して「岩の壁の上」へと移動するだろう。そうなれば、自分たちにも「脱出」するチャンスがあるはずだ……!
純平はそう考えながら、密かにスマホを取り出し、現在の時間を確認した。満潮の予定時刻までは、あと十数分。もちろんいくらかの誤差はあるだろうが、なんとかそれまで凌げれば……。
純平がスマホを見たのに気付き、すぐ横にいた里緒が、純平の手を「ぎゅっ」と握りしめた。
「大丈夫……大丈夫、だよね?」
恐らく里緒も、純平の考えを察したのだろう。そしてその考えが純平の、いや自分たちの「願望」に裏付けられたものであることも。
かすかに震える声でそう問いかけてきた里緒の手を、純平も固く握り返し。「ああ、大丈夫だ」と、出来る限り精一杯の、力強い声で答えた。その声は、多少裏返ってしまいそうなくらい緊張していたが、それでも純平の意思は間違いなく里緒にも伝わり、里緒も「こくり」と頷いた。
今はとにかく、時間を稼ぐだけだ。そう考えた純平は、近くに転がっている石を拾い上げて、豹の向こう側に投げようかと思いついた。石が岩場に当たって「ガツンッ!」と音がすれば、豹もそちらに気を取られるかもしれない。またすぐにこちらに集中してくるだろうけど、そうやって少しでも時間稼ぎの積み重ねをしていくしかない。
純平が、近場にあった手ごろな石を手に持つと、里緒とは反対側の位置で震えていた青山も、足元にあった石を拾い上げた。「豹に当てるんじゃないですいよね? 気を逸らすんですよね?」確かめるように聞いてきた青山の言葉に、純平は「ああ、もちろん」と答え。2人で一緒に、出来るだけ自分たちから離れた場所へ投げようと身構えた。
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