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「俺たちもさ、最初に大手のレジャー企業が、俺たちの町に資金援助して後押ししてくれることになったって聞いた時には、そりゃあ喜んだよ。そんないい話があるのかよ、なんてな。でもまあ、上手い話には裏があるとはよく言ったもんで、まさか海辺の景観をまるっきり変えちまうような工事を計画してたとはなあ……。  そしたら話はすでに決まったことだとか、議会の承認も得ているからとか言い出して。俺たちの反対に聞く耳持たぬみたいな態度だったから、本当に腹が立ったよ。そんでさすがに反対意見が多いのを気にしたのか、今になって突然、対話の場を設けるとか言い始めたけどな。その企業代表の中に、純平の名前があるのを見て。飛び上がらんばかりにビックリしたよ。  そういやお前何年か前に、都会の企業のお偉方に地元を案内してたもんなあとか思い出してさ。あの時は何か、これからの旅行先として紹介してるみたいなことを言ってたけど、それもきっと『企業秘密』に関わることだから黙ってたんだろうなって。  なんでこんなことになっちまったんだか、見当もつかないけどよ。なんたらアドバイザーみたいな恰好いい名前の役職もらって故郷に凱旋するのは、どんな心境なんだろうと一度聞いてみたくてな」  純平には航己の語る皮肉のひと言ひと言が、グサリと胸に突き刺さっていた。最初に資金援助の話を聞いた際に、地元が喜んだのはその通りだろう。純平自身も、まさか自分の企画案が実現するとはと、夢のような思いだったのだから。  だからこそ会社のお偉方に地元を案内した時も、もしかしたらこのまま企画が立ち消えになる可能性も十分にあると考え、航己を始めとした地元の人々には「お偉方への旅行先案内」だと誤魔化していたのだ。そこから企画が自分の手を離れ、あらぬ方向へ突き進んでいくとは、純平には想像もつかないことだった。
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