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 そこで航己は、高校の同級生でありながら、今は町にとっての「裏切者」と言ってもいい存在になってしまった純平に、思いのたけをぶちまけるつもりだった。それまで企業側がのらりくらりと、地元民の反対意見を逸らし続けていたことへの鬱憤が溜まっていたのかもしれない。  だが、いざこうして、目の前で何も言い返すことなく、じっと唇を噛んでいる純平の姿を見て。さすがに航己も、それ以上言葉をぶつけることが出来なかった。その純平の表情は、何かを耐え忍んでいるように思えて仕方なかったのだ。    そこで航己は知らぬうちに、自分でも思っていなかったような言葉を、口にしていた。 「……まあ、こんなことお前に言ってもしょうがないのかもしれないけどな。お前にも色々事情があるんだろ? 何も言い訳せず、そうやって黙りこくったままなのは、お前も一応は責任を感じてるんだろう。お前が俺たちを、この町を裏切るような奴じゃないってことは、俺が一番よく知ってる。  時が経てば、加えて田舎から都会に出て行ったりすると、人ってのは変わっちまうもんかもしれないが。今のお前を見て、なんだかそれほど『昔と変わってない』ように思えるよ。不思議なもんだけどな。……なんか、自分でも何を言ってるのかわからなくなってきたが、とにかくそういうことだ。お前が企業の代表の1人して町に帰って来るって知った時には、顔を見たらなんて罵ってやろうかと、そればっかり考えてたけどな。なんかもう、どうでもよくなってきた」  そう言って航己は、苦笑いを浮かべ。 「それでもまあ、お前が俺たちの『敵』であることは間違いないんだろうけどな……ていうか、今はなぜか、無理やり自分にそう思い込ませようとしている気がする。こいつは敵だ、昔の同級生だからって、気を許すな! みたいにね。でもそれって、よく考えたら馬鹿馬鹿しいことだよな。いや、よく考えなくても、そういうことかもしれないな」
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